この記事は、航空自衛隊連合幹部会機関誌「翼」晩秋号(第128号)に寄稿したものを許可を得て転載しています。
1 防大アメフト部の歩みと、より高みを目指して
防衛省の機関として防衛大学校が1953年に開設。同時にスポーツと文化の両分野で多くのクラブが発足し、校友会を形成していきました。
防衛大学校アメリカンフットボール部(以下、「Cadets」(英語で士官候補生))の創部時期には諸説あります。1期生が発起した、同好の志が集うタッチ・フットボールを経て、関東アメリカンフットボール学生連盟(以下、関東学生連盟)に加盟し、校外活動を開始した1957年とするのが最も適当とされています。
さて、Cadetsは創部の年に関東学生リーグに8番目の大学として加入します。当時の最上級生は防大2期生で、その戦績は2勝(早稲田、学習院)5敗(慶応、明治、立教、法政、日大)のリーグ6位という結果でした。
その後、加盟大学の増加に伴い、1959年からは1・2部制に、1970年から1980年までの間はリーグ制になり、1981年以降に再び1・2・3部制に移行しています。
こうした中、Cadetsは2001年以降、1部リーグ入りが遠ざかっている状況です。最近の10年間は、2部に7か年、3部に3か年という在籍結果です。
しかし、一昨年当面の目標であった2部昇格を果たしました。これは監督、スタッフ・コーチ、選手が一丸となって戦力強化に努めてきた成果です。特に、他大学出身の部外コーチ陣(現在、5名)による尽力が大きな要因の一つでした。この年のオフ・シーズンには、さらなる上位進出を果たすべきとの機運がOBを含む関係者の中で高まっていきました。
この雰囲気を単なる期待感に終わらせないために、戦略的な観点からCadetsの運営全般に関する基本的な方針を掲げ、それに基づいて各種課題を解決に導く具体的な施策等を示す活動がOB有志を主体に始まっていきました。
2 戦力アップのための10年構想
昨年春、新監督の要望等により、創部以来初めてとなるCadets及びOB会の戦略ビジョン等を定めた「防衛大学校アメリカンフットボール部の運営等にかかる長期的戦略指針」(以下、戦略指針)案をOB会有志で作成、4回の説明検討会を経て今年3月のOB総会において議決するに至りました。
戦略指針は、Cadets及びOB会による10年先の将来を見通す長期的な活動及び全般運営上の方向性を示すものです。作成にあたっては、Cadetsの戦力向上にかかる心技体の総合的な検討を行い、最高峰の1部リーグ定着と最高位獲得を実現するための長期的な戦略の構築を目指しました。
戦略指針の特徴は、次の5つです。
①Cadets戦力の充実及びその最大発揮を目的として、中長期的な観点から将来のCadets運営環境を分析評価する。
②防衛大学校の創設目的に照らすとともに、関係する省庁、機関、団体が有する理念及び行動指針等を作成上の基礎とする。
③Cadets創部以来、初めてとなるビジョン(基本理念、将来像、Cadetsに求める能力等)を戦略指針の中核として作成する。
④ビジョンに基づき、Cadets活動上の運営戦略及びOB会の活動方針・長期計画等の骨子を明らかにする。
⑤前項の運営戦略、方針及び計画等を推進するにあたって、予測される各種課題を明確にするとともに、それぞれの対応の方向性を示す。
戦略ビジョンを具現化するためには、「指導体制の充実」と「活動経費の増加」が最重要事項であることがわかりました。また、この相乗効果によって、1部常連チームになる可能性があるとの評価も得ました。戦績が向上することに伴って、選手層の厚さが期待できる上に校友会活動全体を牽引する存在にもなれると期待できます。
Cadetsがこうした一部進出の道をたどるには、特に寄付受けを含む安定的な活動経費の確保が最も肝心です。そのためには、OB会のさらなる活発化並びに家族会、後援会と一体となる組織構築が不可欠であることも分かってきたのです。
3 チーム理念と将来像
戦略指針の作成上、まず取り組んだのが、「チーム理念」、「将来像」、「チームに求める能力」等を明らかにすることです。監督、スタッフ・コーチ、選手のみならずOB会を含めたすべての関係者が、戦略ビジョンを共有して、その実現に向けて努力を傾注できるよう配慮しました。
このうち、「チーム理念」は、Cadetsの将来像を明らかにする上で、中心となる考え方です。チームが未来にわたり存続、活躍するとともに、ビジョンを具現化するための根本となる価値観であり、不可欠かつ不変なものと定義づけしています。
「チーム理念」を創り上げるにあたっては、国内外の関係組織(国の機関、大学、企業等)の理念を調査しました。この結果を参考にしつつ、昭和時代(創部期)から受け継がれてきた「部訓」と、平成時代のチーム信条であった「横須賀フットボール」を融合させ、「チーム理念」を次の3項目として掲げています。
(1)リーダーシップの強化
(2)勝利の追求
(3)規律下の闘志と団結心の保持
ちなみに、「部訓」は、『闘志なき者は去れ 而して山を降りよ』です。創部から間もない昭和30年代半ばに当時の監督及び選手によって創作されたといわれます。「横須賀Football」は、平成20年代半ばの監督及びヘッドコーチを中心にチームの戦い方と共に、選手等の行動規範となる『チームの一員、個人の取組み、防大生』をTeam Philosophyとして定められたものです。
次に、「将来像」です。チーム内外における諸環境の変化を見据えて、チームとしての戦力構築を図るため、中長期的観点からあるべき姿を分析、検討しました。これを踏まえ、チーム理念を中核とするビジョンを明らかにして、これまで培ってきた人的、資金的、技術的基盤をいっそう拡充しようという主旨です。他校の巧みな戦術用法にも対処し得る均整のとれた戦力及びその発揮のための支援体制を整備するとともに、健全、適切な全体運営を行わなければならないという意思を強く打ち出すことにしました。この考え方に基づき、戦略指針が対象とする期間における「将来像」を、以下の4項目に総括しました。
①Cadetsは、充実した指導体制の確立、並びにチーム戦力の最大発揮に要する活動資金の安定的確保の下、チーム戦力を常に高いレベルに維持する。これにより、最上位リーグでの定着化を図る中にあって最高位を獲得する。
②Cadetsは、監督・スタッフ及び選手の双方が主体となって、精強なチーム体制を構築する。その上で、計画的な教育訓練の実施及び練習環境の整備により、ポジションに応じた適性ある選手を養成する。
③Cadetsは、OB会の全面的支援を得つつ、毎年度掲げる目標の達成を目指す。この際、OB会のうち、現役自衛官の職にあるOBについては監督、スタッフ・コーチ等の人材管理を主に行うとともに、退職したOBは資金拡充に注力する。
④Cadetsは、OB会と密接に連携しつつ、戦力発揮にあたって運営戦略の見直しを継続して行うとともに、戦術面においても他校に対する優位性を確保するための各種方策を打ち出すことによってチーム能力のさらなる強化を追求する。
さらに、「将来像」を具現化するために、特にチームに求める主な能力を、以下のように定めました。
■個人基礎技術力
基礎技術力は、あらゆるポジションの選手が試合・練習において終始使う能力。これまでの実績及び防大の特性から、スピード(速力・瞬発力)、スタミナ(持久力)及びコンタクト(接触力)を特に重視する。
■コーチング力
選手はほぼ未経験者集団であり、各選手要員を一人前に育成するには優れたコーチング力が不可欠。今後とも、校外から人材確保がチームの戦力向上に大きな影響力を持つため、積極的に関係施策に取り組む。
■ポジションに応じた応用技術力
応用技術力については、戦術プレーの質及び多様性を高め、試合に勝利するために必須。個人基礎技術力を修得した上で、それぞれのポジションを担うにふさわしい技術を身につけ、他チームの同一ポジション選手を凌ぐ技量を求める。
■情報収集・分析力
対戦相手のプレースタイル、個人の能力、得意プレー、弱点等を分析するスカウティングの観点から、情報収集に基づく各種のデータ化を図る。また、自らのチーム選手個人のプレー能力を評価し、チーム・プレーに反映する。
■組織戦を担うチーム力
チーム力に関しては、フィールド内の選手に限らず控えの選手、指導する監督、スタッフ・コーチ、前項で示したデータ管理スタッフ、専門医学知識を有するドクター、栄養アドバイザーといった様々な要員を可能な限り充員する。
4 Cadetsの運営戦略
戦略ビジョンを受け、チーム及びOB会の合同運営戦略を、「理念の浸透」「人材の充実」「環境の拡充」の3つの基本方針にとりまとめました。各方針の記述にあたっては、次なる段階で具体的な施策を案出し得るよう配意していきました。各方針の概要は次のとおりです。
(1)「理念の浸透」
ア チーム理念の共有及び浸透
Cadetsの運営等に関わる全員がチーム理念を平素から共有します。また、先述のビジョンを早期に実現するために、チーム理念の浸透及び定着を図った上で、Cadets及びOB会のさらなる発展につなげていきます。
イ Cadetsの歴史・伝統の理解及び継承
Cadetsの歴史及び古豪に相応しい伝統を深く理解することにより、チーム愛を高めていきます。また、これまで培ってきた知識及び経験を継承することにより、Cadets及びOBの間に一体感を生み出します。
ウ 情報発信の強化
チーム力の向上及び戦力強化にあたっては、部内外に多くの支持者を得ることが必須です。チームが勝利を目指す姿に触れ、共感を呼び込むために、積極的SNSを最大活用することにより、関連情報を広範囲に発信していきます。
(2)「人材の充実」
ア 有能な部員獲得のためのリクルート活動の強化
運動能力の高い選手を一人でも多くリクルートする要領を定め、選手要員の規模拡充を図ります。併せて、新入部員の募集においては、後述する③項のスタッフ要員の勧誘にも努めます。
イ スタッフ・コーチの安定的な確保
引き続き、高い技術指導力を待つ部外コーチをポジション別に確保するよう処遇の枠組みを定めます。また、防大出身又はフットボール経験のある現役自衛官の指導官等を確保します。
ウ 学生スタッフ要員の定員化
選手要員とは別に、入部当初から選手を多方面で支援するスタッフ要員を定員化します。特に、情報収集、彼我の戦力分析及び評価、選手の身体管理、監督・スタッフの補佐を務める学生を一定数確保して戦力強化に努めます。
(3)「環境の拡充」
ア OB会をはじめとする支援団体の拡充及び活用強化
選手等の活動意欲を高揚することを念頭に、OB会の充実、「家族会」及び一般の会員で構成する「後援会」の設立を企画します。その上で寄付受け等により、資金確保の活動を展開します。
イ 練習器材等の充実整備をはじめとする後方支援態勢の強化
前項の活動資金の獲得を前提に、個人のウエイト・トレーニングをはじめチーム内の連携練習等に関する器材等を戦力強化の観点から計画的、先行的に購入します。
ウ 専用グランド等の確保
他大学と同様に、防大グランドの人工芝化を促進し、天候に左右されない練習環境を整備する。充分な練習量を確保する上でも専有化するとともに、連盟から試合場として認可が得られる付帯施設を整備していきます。
5 OB会が目指す戦力基盤の充実
従来からOB会則に規定していました「防大アメフト部の活動を支援し、その発展に寄与」というOB会の目的を達成するため、先述の運営戦略に照らして、あらためて同会の活動方針を明らかにすることにしました。
その重視事項は、以下のとおりです。
(1)OB会の組織力発揮のための連絡体制、協力体制及び管理体制の強化
(2)理念の共有、事業推進への理解を得るための情報発信(部内外広報)
(3)世代を考慮したOB会活動における役割分担
(4)チームに対する支援金増額のための取り組み
また各方針のもと、具体的な施策・事業を達成目標と共に示すことにしました。その一例として、前項の運営戦略のうち、「環境の整備」の「OB会をはじめとする支援団体の拡充及び活用強化」の主な事項を記述してみますと、次のとおりになります。
①OB会
幅広い施策への参画を目標に、各期代表者を通じた情報共有系統を確立するとともに、各種事業の計画的推進のほか、未活動者の積極的参加を促します。また、事務局機能の充実を図り、OB会費の納入向上及び一般会員からの会費・寄付金の収益を得ることを目指します。
②家族会
家族会の設立を目標に、選手等の家族への情報提供系統を確立し、試合・練習への家族招致等に関する活動の活性化を図ります。
③後援会
後援会の設立を目標に、部外への情報発信を強化に努めることにより、一般応援者の参入及び組織化を目指します。
6 ビジョンの実現に向けて
この度の戦略指針の作成は、昨春のCadets監督の交代を機に発意しました。これまでCadetsが歩んできた歴史を振り返り、諸先輩が築き上げた実績を評価しつつ、将来のCadets及びOB会のあるべき姿を戦略的観点から分析すべきとの新監督の提言を受け、OB会が主体となって作成に当たりました。このこと自体は、数年後に創部70周年を迎えるにあたって、大きな節目におけるOB会としての業績の一つにもなり得るとの判断がありました。
対象期間として、これから先10年を見通していますが、「Well begun, half done」の格言にもあるように、ビジョンの早期具現化に初年度から全力を傾注していきます。 そのためには、Cadets及びOB会にかかる全ての関係者があまねく基本理念の共有を図り、一致団結した諸活動を行うことがとても重要になります。
運営戦略及びその具体的な活動の中で、家族会及び後援会を計画的に設立して、さらなる組織的な戦力拡充のための体制整備に尽力することを掲げました。この最終的な段階では、「チーム強化育成委員会(仮称)」なる枠組みを構築して、真に物心両面からのCadets活動支援に努めることを目指しています。
ぜひ今後の活躍に期待していただくと同時に、こうした活動に多く方に参加していただけることを心から願っています。
防衛大学校アメリカンフットボール部の年間を通じての活動状況、試合スケジュール及びその結果等については、以下でご覧いただけます。
■ホームページ
①防衛大学校アメリカンフットボール部の URL:http://www.nda.ac.jp/ed/cadets/
②Cadets を応援するHP(OB会HP)の URL:https://www.cadets1957.com/
この「翼」誌を愛読いただいている方々には、年間スケジュールで示される試合会場に足を運んでいただき、私達と一緒に観戦を楽しんでみませんか。先述のホームページの問い合わせ先等をご利用いただき、事前に依頼していただけるとOB会員が案内及び試合ルールの説明をさせていただくことも可能です。
格闘、頭脳、戦術等、様々な要素が凝縮された究極のスポーツを堪能していただき、将来の我が国の安全保障を担う選手達を応援していただくことを切望します。