ホーム勤務の思い出市ヶ谷基地(東京都新宿区)

市ヶ谷基地(東京都新宿区)

市ヶ谷基地勤務時代(平成22年7月~平成24年7月)の思い出

 桧町及び市ヶ谷の両基地での勤務回数は、計8回でした。

 中でも、最も心身の鍛錬となった時期である航空幕僚監部装備部長時代の部内回覧ブログをいくつか見つけました。

 

 当時、装備部内のPC端末のみで閲覧できるネットワークを活用して、装備部で勤務する幕僚に向けて発信した内容を月1回基準に綴っていきます。

 

 内容的には、当初は幕僚のストレス軽減をねらいに、コーヒーブレイク的な気軽さをもって書き出すつもりでした。

 しかし、結果的には、業務遂行上の糧、勤務意欲の向上を求める、指揮官の要求・指導事項みたいになってしまったようです。

 

 それでも現在及びこれから空幕で勤務される皆さんが、それぞれの立場で共感してもらえることがあるかもしれません。
 なお、参考資料等は著作権の関係から表題等のみの掲載に変更しました。それ以外は原文のままです。

装備部長雑感(第1回) :平成22年10月26日付

 現職に配置され、早3か月。着任の辞で示したとおりの信条等で皆に支えられながら、所掌事務に遭進してきたところではあるが、未だに青息吐息で戸惑いの感ありというのが正直なところ。

 

 こうした中、自らを鼓舞することと、装備部勤務者個々の啓発、業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に小職の小雑感と一般図書の紹介について掲載することを発意したもの。

 この方法については、実は空幕運用課運用調整官の職にあった平成16年以降、配置された職で実施してきたこと。

 したがって、特にこの間、小職と同一部隊、部署等で勤務した経験のある人にとっては、新味はないものと思う。

 

 昨今、装備部にあっては、所掌する本来業務に加え、いわゆる第1補給処事案をはじめとする「事案対処型業務」が多々発生しているため、各人の業務負担も個人的な差こそあり増加しているのが実情。

 小職の空幕におけるこれまでの幕僚経験からすれば、難儀な業務処理が伴う事業であればあるほど、個人の英知を絞ることはもちろんのこと、上司の指導、同僚等の助言あるいは部下との意見交換、さらには図書・ネット・有識者等の活用などが肝要で、能力面ではマネジメント(段取り力)力やチームワーク力が不可欠である。

 

 小職も空幕担当の時に、当時の班長から『幕僚勤務の十訓』を踏まえた指導を適時受け、いまでもその教えが記憶に残る。


 『解決の糸口は3か日考えて結論を出せ!』

 『長くても暗くてもトンネルは抜ける』

 『課題解決のヒントは通勤の途中で石に蹟いた時に閃くこともある』

 『食事は忙しくても、食欲がなくても、無理して食べろ』


など明確なものだった。

 事実、これらの言葉にこれまで何度も難局に対峙した際に助けられてきたことか。

 

 千歳基地司令として勤務していた折には、NHK番組「プロフェッショナル」を関心もって観ていた。中でも「仕事術」という題目で何回か放送されたものが印象深い。いずれにしても、仕事は人生の大きな糧であり、遣り甲斐、生き甲斐のひとつであることに違いない。

 

 そこで、初回は「仕事」に焦点を当てて、後記案内(『仕事で本当に大切にしたいこと』(著者:大竹美喜、出版社:かんき出版)の図書の一部を紹介するもの。当該本の中では、不特定の仕事を対象に記述されていることから、自衛官の職務遂行上の心構えに、必ずしも合致する項目ばかりではないが、少なくとも自学研鎖の資になるものもあるのではないだろうか。

 

 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範晴であり、個人的な関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、公私にかかわらず役立ててもらえるならば幸甚。

装備部長雑感(第2回) :平成22年11月22日付

 空幕での業務は多種多様にして多忙。個々のスタッフが担う事務上の課題は、多分に難儀なもの。その一方で求められる解決・処理上の質のレベルは高い。
 こうした職場環境の中で、個人が業務成果を得るために並々ならぬ努力をすることはもちろんのこと、多くの場合、同じセクションあるいは他部・課等のスタッフから知恵を借りることになる。扱う事業の規模が大きくなればなるほど、関わるスタッフ数は増え、団結力・協調力が一層間われることにもなる。

 ある事業において質の高い成果を残そうとせんがために、他の事業に費やすべきロードの振り替えや、自らのプライベート時間を犠牲にしているスタッフもいるだろう。
本来であればリラックス&リフレッシュしている時間をである。
 空幕、いわゆる中央での勤務者は、現場の部隊・隊員のため、空自組織のため、ひいては国家の安全保障のために、奮起してそれぞれの職務に精励することが大いに期待され、またそれに応えていかなければならない立場にある。

 小職は現職で6回目の空幕勤務。勤務するたびに考えては見送ってきた「仕事のより良い成果に対する計画的な休暇取得の効用」、この命題をこの機会に部下と共に実証してみようと思う。
 各人が実行するのは、『計画的な休暇取得の励行』。つまり、
個人の趣味や家庭生活の充実をわずかでも図りつつ、仕事に取り組む意欲を上げたり、常に前向きな姿勢を確保するためのインセンティブ手段のひとつとして、周到な計画の下に個人休暇を積極的に取るということ。

 先日、区の図書館で上述の参考文献を偶然見つけた。それは「プロフェッショナルこそ計画的に休まなければならない」という刺激的(?)なタイトル(「ハーバードビジネスレビュー」(201 0年3月号))だった。
 論旨を簡単に述べると、「計画休暇をとることで、業務効率が高まり、かつワーク・ライフ・バランスが実現する」という内容。さっそく小職はこの実験記事をもとに当部で先の命題を試すべく構想案を作成するつもり。
 これも現在検討中の「装備部の
将来展望」に示した当部所属隊員の福利厚生等に資するものと確信しているのだが。

 そこで今回は、「休暇」に着目して、後記案内(『休暇力』(著者:和田秀樹、出版社:インプレス)の図書からその一部を抜粋したものを添付。年末とりわけ予算関連で忙しい時期を乗り切ったうえで、来年の年頭から大いなる夢を抱き、その実現を決意し、仕事でも私生活でも定めた目標を達成するために、まずは年末年始休暇を有意義に過ごしてほしい。
 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範晴であり、個人的な関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、公私にかかわらず役立ててもらえるならば幸甚。

装備部長雑感(第3回):平成23年1月11日

 これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。
 今回は、『組織力を高める』(出版社:東洋経済新報社)という題名の図書を以下の理由等から選定。

 報告・指示・連絡・伝達の遅さや暖昧さから、重大問題や大事件へと発展していく事象の流れは、いつの時代も、どんな組織でも起きてきた。ITが著しく発達した現代でもこの傾向はとどまることはない。
 むしろインターネットをはじめとする各種手段任せの状態に陥りがちな昨今、人的に小規模な組織にあっても良好なコミュニケーションが取りづらくなっているのではないだろうか。

 こうした状況は、我々の組織の中でも至るところで起きている。具体的な事例については避けるが、航空自衛隊内にあって命令・指示の適正性を欠いたために、また航空自衛隊と他組織の間で平素の入念なコミュニケーションを怠ったために、不測の事態を発生させ、そのあげく深刻な事態を招いてしまっているものもある。
 果たして空幕の中ではどうだろうか。装備部内は大丈夫だろうか。

 我々は、従前からコミュニケーション不足が原因である問題の生起を防止するために、様々な括り(部内、課室内、班内、課長間、班長間等)を設けて意思疎通を図っている。
 それでも同種の問題は起こる。日頃からコミュニケーションの重要性を十二分に認識し、あわゆる機会を通じて会合等の開催に努めていても、これほどに上意下達、下意上達、情報共有を徹底するのは困難なものらしい。

 そこで、今回は、装備部の、空幕の、ひいては空自全体の組織力を高める、すなわち空自の任務遂行力をさらに向上させるために、我々ひとり一人がコミュニケーションを図るうえで、強く意識しなくてはいけないことに焦点を当ててみた。
 極めて特定の文節のみを抜粋したので全体像が分かりづらいところではあるが、ご容赦願いたい。
また、下記資料の最終節中にある「マネジャー」を課室長、班長、総括、担
当といった職名に、あるいは中間指揮官、幕僚、上級空曹、セクションチーフ、クルー長、内務班長などとの自らの立場に、置き換え読み替えてみると理解促進に役立つはずである。
 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範疇であり、個人としての関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、役立ててもらえるならば幸いである。


ー なぜ「組織力」が発揮できないか―
・・・ 現場に「情報」が伝わらない(情報の減衰)・・・

「組織力」は、その衰退要因を知ってこそ高められる
 「組織カ」を低下させる要因のーつに「情報の減衰」がある。

組織に起こる伝言ゲームの「罠」
 「情報は伝言ゲームを繰り返すうちに薄まっていく」というのは、誰もが日常の経験で漠然と感じていることだろう。ある情報を誰かに伝える、そしてその誰かがまた違う誰かにそれを伝える、といったことを繰り返しているうちに、情報はもとの情報から多かれ少なかれ「歪め」られ、本来の情報とは違ったものになってします。ここでは、このような情報の劣化を「情報の減衰」と呼んでいる。
 組織の場合も、これと同じ「情報の減衰」が起こる。組織の中で伝言ゲームが繰り返されると、もとの情報から、本来伝えられるべき内容が抜け落ちたり、歪められたり、行間のニュアンスが消えてしまったりする。
 このような「情報の減衰」が起こることによって、組織内で同じ情報が共有されない、「歪め」られた情報しか共有されない、といったことが起こってしまう。その結果、組織がバラバラの方向を向いたり、やるべきことが行われなかったり、部門間の縦割り文化が生まれたり、といったさまざまな問題が発生することになる。
 しかし、ここで注意しなければならないのは、この「情報の減衰」は、私たちの日頃の伝言ゲームでも起きるように、人間にとって不可避的なものだということだ。だいたいにおいて、人は誰かの話を100%理解することもできなければ、100%自分の想いを誰かに伝えることもできない。
 よって「情報の減衰」は、その点で人間にとって宿命的なものだと言えるのである。
 そして、それは人の集まりである組織にとっても、当然のごとく宿命的なものとなる。筆者の経験にもとづくと、組織内のコミュニケーション、とくに業務遂行におけるコミュニケーションにおいては、直接話をした場合でも人は聞いたことの8割程度しか理解できておらず、その情報を誰かに伝える段になっても、9割くらいしか伝えられないのが実情である。情報を受け取る段階でも「情報の減衰」は起こるし、その情報を誰かに伝える段階でもまた「情報の減衰」は起こるのだ。
 その結果、理論的には一人の人間が介在することによって、その人が聞いた話の内容は、最大でも72%(=100X0.8X0.9)しか次の人へ伝えられないことになる。
 このような前提にもとづけば、社長から(略)2名の中間管理職を経て担当者へと、情報が伝達される場合、それは、37%にまで減衰することになる。きわめて乱暴に見える算数ではあるが、身近な経験に当てはめてみると、それほど非現実的な数字ではないのではないだろうか。(図は略)

情報だけでなく、熱意・価値観も減衰する
 ただ、「情報の減衰」が指すところの「情報」はたんなる情報だけでない。それには我々の熱意や価値観、あるいは危機感といった「情報」も含まれる。
 たとえば、会社では、社長の想いは、一体どの程度、職場に伝わっていると思われるだろうか。筆者がこれまでお付き合いした多くの企業の状況から憶測すると、3分の1から10分の1程度のようである。そのような社長の想いも、人という組織を通じてしまうと、大きく減衰してしまうことになる。
 情報技術の発展により、イントラネットやEメール、携帯電話など、コミュニケーションの手段は多様化し、かつ安価で手軽になってきた。しかし、昔に比べてトップからのメッセージが伝わりやすくなったかと言えば、必ずしもそうではない。安価で手軽になった分、意味のない情報が氾濫したり、本当に大事なことが埋もれてしまったりする。
 また、熱意や危機感などは言葉以上に、話し方や表情、その場の雰囲気などで伝わるものだが、それが抜け落ちた形で言葉だけが行き来し、結局、最も大事なものが伝わらない状況を生んでいる。
 必要な情報が組織全体に共有されなければ、「遂行能力」や「戦略能カ」そして「組織力」の発揮に望むべくもない。マネジャーは、トップと現場をつなぐ要にあり、部門間の連携を行う要でもある。だからこそ、マネジャーが「情報の減衰」を弓は起こすのではなく、それを防がなければならないのだ。そういった点でも、マネジャーの役割は大きい。

装備部長雑感(第4回):平成23年2月28日

 これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。
 今回は、『生き方』(著者】稲盛和夫、出版社】サンマーク社)という題名の図書を以下の理由等から選定。

 我々は、指揮官、幕僚いずれの立場であれ、補職のいかんによらず自学研鎖を絶えず求められ、また上司・部下等、他者への積極関与が任務遂行上、不可欠とされている。さらには、一般社会人・家庭人としても人生における精進を求めるならば、当然ながら人間修養は必須のもの。その一方で、こうした自らが高遭な意識を抱き、描く理想にまい進すれば、人生は順風満帆かといえば必ずしもそうではないところもあり、とかく人の生き方は難しい。

 最近、複数の戦闘航空団において隊員の自殺があった。なんとも痛ましいことである。確かに一般社会や他の大規模組織に比較すると自殺の件数は少ないのかもしれない。
 しかしながら、死生観を共有する我々の組織にあって、隊員やその家族の死亡は部隊内に与える影響は少なくない。それが自殺であればなおさらのこと。
 小職が補任課長職にあった6年前、空自内の自殺者数が増加傾向を示したことがあった。当時の空幕長の指導等もあり、関係通達の発簡、部隊を巡回しての講話、集合教育等、組織として為しえることを尽くした。対処療法だったのか数年後また増えた。
 また、自ら司令として勤務した時にも、謹厳実直な隊員が自殺、動機は不明。同隊から溌剌さが消えたのは言うまでもない。

 この本は決して自殺防止をねらいとした内容ではなく、副題に「人間として一番大切なもの」と記されていることから、他人とのかかわりを持ちつつ、自らの「人生」を強く、そして豊かに生き抜くことについて書かれている。
 発売以降、6年半を経過してなおロングセラー。年間ベストセラーになったこともある。

 自分が内面を磨きつつ、自身を見失わないようにすること、その一方で他人への気遣いが大切。頭ではわかってはいるが、なかなか実行できない。
 小職は先般の日米後方担当者会議において米空軍本部・A4のレノ中将の「物事を表からだけ、目に見えることだけで評価しない」という生き方に感服した。小職もかくあるべきとの意識を強めるとともに、著者が薦める反省(すまん)と感謝(ありがとう)の言葉を発することから、あらためて「生き方」を実践していくこととしたい。

 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範暁であり、個人としての関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、役立ててもらえるならば幸いである。

生き方ー稲盛和夫ーサンマーク出版
(以下は、当時私が自らに言い聞かせるため選択した文のポイントを列挙したものです。)

〇現世は、心を高めるために与えられた期間、魂を磨くための修養の場。人間の生きる意味や人生の価値は心を高め、魂を練磨することにある。
〇嘘をついてはいけない、人に迷惑をかけてはいけない、正直であれ、欲張ってはならない、自分のことばかりを考えてはならない。
〇この俗なる世界で日々懸命に働くことが何よりも大事。
〇「精進」とは、一生懸命働くこと、目の前の仕事に脇目もふらず打ち込むこと。
〇人生・仕事の結果=二考え方×熱意×能力
〇寝ても覚めても強烈に思いつづけることが大切。すさまじく思うこと。強く一筋に思うことこそが、物事を成就される原動力。
〇「手の切れるようなものをつくる。」「もう、これ以上のものはない」と確信できるものが完成するまで努力を惜しまない。
〇楽観論者を集める。しかし、細心の計画と準備が必要不可欠。「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する。」
〇運命は自分の心次第という真理に気付く。
〇「もう、だめだ、無理だというのは、通過地点にすぎない。全ての力を尽くして限界まで粘れば、絶対に成功する。」
〇いたずらに明日を煩ったり、将来の見通しを立てることに汲々とするよりも、まずは今日ー日を充実させることに力を注いだほうがいい。それが結局、夢を現実のものとする最善の道。
〇創意工夫する心が成功へ近づくスピードを加速させる。
〇何気ない場面の些細な出来事から、不意に夢をかなえるためのアイデアやヒントがひらめくことがある。
〇言うは易く行なうは難し。いつも反省する心を忘れず、自分の行いを自省自戒すること。
〇何事に対しても、ど真剣に向き合い、ぶつかっていくーこれは、「自らを追い込む」ということ。すなわち、困難なことであっても、そこから逃げずに真正面から愚直に取り組む姿勢をもつ。
〇現場で汗をかかないと何事も身に付かない。
〇あふれるような熱意をもって、ど真剣に懸命に今を生きること。目の前のことに没頭して瞬間瞬間を余念なく充実させること。まずは今日一日を一生懸命に過ごすこと。
〇成功する人というのは自分のやっていることにほれている人。仕事をとことん好きになれ。
〇日本人の美徳は「謙虚さ」。
〇リーダーには才よりも徳が求められる。
〇西郷隆盛「徳高き者には高き位を、功績多き者には報奨を」と述べている。
〇リーダーの資質は①人格②勇気③能力
〇人の上に立つリーダーにこそ才や弁でなく、明確な哲学を基軸とした「深沈厚重」の人格が求められる。謙虚な気持ち、内省する心。「私」を抑制する克己心、正義を重んじる勇気。あるいは自分を磨き続ける慈悲の心。「人間として正しい生き方」を心がける人でなくてはならない。
〇心を磨く指針。「六つの精進」①誰にも負けない努力をする②謙虚にして矯らず③反省ある日々を送る④生きていることに感謝する⑤善行、利他行を積む⑥感性的な悩みをしない
〇どんなときもありがとうといえる準備をしておく。
〇嬉しいときは喜べ、素直な心が何よりも大切。
〇反省(すまん)と感謝(ありがとう)の心をこの二つの言葉に代表させて自分を律するための、単純で明快な指針とする。
〇大事なのはできるだけ「欲を離れる」こと。欲望、愚痴、怒りの三毒を完全に消すことはできなくても、それを自らコントロールして抑制するよう努めること。
〇釈迦の六波羅蜜①布施ー世のため人のために尽くす利他の心をもつこと。②持戒一人としてやってはならない悪しき行為を戒め、戒律を守ることの大切さ③精進ー何事にもー生懸命に取り組むこと④忍にく一苦難に負けず、耐え忍ぶこと。⑤禅定ー多忙な中にあっても、いっときの時間を見つけて心を静めること⑥智慧ー悟りの境地に達すること。 

装備部長雑感(第5回):平成23年3月4日

この時は、装備部内で使用するビジョンを作成したことを対象にした雑感でした。ビジョンそのものは、すでに破棄されていますので掲載していません。

〇 今月1日付で、昨年7月着任以来、その作成に積極的に取り組んできた装備部の「将来展望」を発簡することができた。まずは、作成にあたって装備部全体の段取り及び取りまとめを担当した装備課調整班、また「(中長期的観点から)重視すべき主要な業務」を案出した各課班関係各位の労を多としたい。
 とは言え、今次の「将来展望」は何といっても初版。これからビジョンの実現に向けての活用期に入り、内容の充実、目標の達成等を図りつつ、改訂を重ねていくことを大いに期待するところである。
 空幕において業務遂行する上で、我々を取り巻く諸環境はこれからも大なり小なり変化することになろう。こうした中で、年度業務計画の内外を問わず長期的検討を要する業務が増加、あるいは従来は比較的短期間で処理し得た業務も、その複雑な背景等により長期化する傾向は続くものと予測。
 かかる状況を踏まえ、「将来展望」の見直しは四半期ごとと定めているものの、各事業内容の深化、新たな課題に対する処置項目の追加等を常に意識下に置くことはもとより、担当者の異動等に伴う当該事業の中断を回避するために事業進捗の細部にわたる記録化を要望する。
 加えて、この「将来展望」から得られた業績については、当然ながら勤務評定等に反映
することを付言。


〇「部長雑感」の観点での、一般図書等の紹介については、「装備部の将来展望」に関連あるものをと考え、次の2件を選定。
 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範騰であり、個人としての関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、役立ててもらえるならば幸いである。


1『「世界週報(2006.11.7)」・勝ち残る企業とリーダーの条件』という連載物からの一部抜粋。
[入間基地勤務時に隊員教育で使用した際の資料関連]

 「ビジョン」とは、「こうなりたい」という「あらまほしき」姿のことである。今はそうではないが将来は「こうなりたい!」という理想の姿である。
 サミュェル・ウルマンの「青春」という詩に次の一節がある。  
 「青春とは臆病さを避ける勇気、
やすきにつく気持ちを振り捨てる冒険心を意味する。時には、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。年を重ねるだけでは人は老いない。理想を失った時に初めて老いる」。
 
 東京ディズニーランドが開業当時、社員の募集を行った。手を挙げる人はわずかしかいな
かった。翌年、企業案内の小冊子に次のビジョンを紹介した。「(ディズニーランドは)絶えることのない人間賛歌の聞こえる広場づくりを目指す」。3000人の応募者が殺到したという。

 「企業が犯す最大の罪は、従業員にビジョン無き仕事をさせることだ」。米高級ホテル・リッツ・カールトンのホルトス・シェルツイ会長の言葉である。苦労や困難はあってもトンネルの先に「夢」という光がビジュアライズ(心に描く)できたときに苦労は苦労でなくなる。


2 『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』(著者:ジェームズ・C・コリンズ、出版社:日経BP社)からの一部抜粋。
[注:「企業」を「組織」と読み替えての理解を求む]

〇 偉大な企業になるビジョンを追うこと自体には、何も問題はない。飛躍を遂げた企業はいずれも、偉大な企業を築こうと努力しているのだから。しかし比較対象企業とは違って、飛躍した企業は、厳しい現実を認識して、偉大な企業への道をたえず見直している。

〇 リーダーシップの要点はビジョンである。これは事実だ。だが、それと変わらぬほど重要な点に、真実に耳を傾ける社風、厳しい事実を直視する社風を作ることがある。「自分の意見を言える」機会と、「上司が意見を聞く」機会との間には天地の開きがある。偉大な企業への飛躍を導いた指導者は、この違いを理解しており、上司が意見を聞く機会、そして究極的には真実に耳を傾ける機会が十分にある企業文化を作り上げている。

〇 偉大さへと導くとは、まず答えを考え、理想を実現するビジョンに向けて人々の意欲を引き出すことを意味しているわけではない。答えを出せるほどには現実を理解できていない事実を謙虚に認めて、最善の知識が得られるような質問をしていくことを意味する。

 ちなみに、この本は現在3巻(「特別編」を入れると4作)まで発行されている。『ビジョナリーカンパニー①時代を超える生存の原則』、『同②飛躍の法則』、『同③衰退の五段階』というタイトルが付けられていて、ネット情報では4巻目の発刊もあるらしく、「復活」を主眼にした内容らしいとのこと。
 今回、あえて「②飛躍の法則」を選択したのは、空自組織がこれからさらに飛躍するとの期待を込めてのこと。
 なお、同書の巻末に、小職が防衛大学校在学中に教鞭をとられていた、『失敗の本質』で有名な野中郁次郎氏による解説があったので参考までに。

〇 解説(当時)一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授 野中郁次郎

 『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』は、1994年に出版され経営書としてベストセラーになった『ビジョナリーカンパニー』の著者であるジム・コリンズが、6年の歳月をかけて「良い企業」と「偉大な企業」の違いを調べ上げ、そこから得られた知見を偉大な企業の法則としてまとめたものである。
 本書の出発点は、あるコンサルタントに「ビジョナリーカンパニーはすば
らしい本だが役に立たない」と批判されたことに始まる。 
 ビジョナリーカンパニーと評価された
企業は、いずれも偉大な創業者によって作り上げられたもともとグレートな会社なので、グレートに飛躍できない企業の手本にはならない。このような指摘から、本書の基底にある「どうすれば、グッド・カンパニーはグレート・カンパニーになれるか」という新たな問いが生まれた。
 本書で取り上げられたグレート・カンパニーは11社。われわれ日本人には馴染みのない企業が少なからず含まれている。
 コリンズらは、グレート・カンパニーの選定に際し、過去35年
に遡って膨大な資料を集め、さらにこれらの企業に共通する要素を競合する企業との比較を通して丁寧に分析している。厳しい選別基準に対する批判を考慮にいれても、このことが本書の内容に厚みを与え、読者に納得を促すだけの根拠となっている。
 まず、彼らが最初に指摘するのは、「第5水準のリーダーシップ」と呼ぶ、優れた経営幹部の存在である。グレート・カンパニーのリーダーたちは、強烈な個性の下で指導力を発揮し大胆な経営手法を駆使するジャック・ウェルチ型の経営者ではなく、むしろ控えめで物静かで謙虚でさえあった。
 しかし、逆説的であるが、彼らには自社を偉大な企業にするために真理を追
究し続けるという職業人としての強い意思とそれを愚直にやりぬく粘り強さがあった。彼らは、異なる意見に耳を傾け、従業員とじっくり対話し、リアリティの持つ多面性を総合化していっ
た。コリンズたちは、このようなリーダーたちのことを「パットン将軍やカェサルというよりもリンカーンやソクラテスに似ている」と描写している。
 グッド・カンパニーからグレートーカンパニーに
飛躍した企業では、例外なく転換期にこの種の指導者が指揮をとっていたという。
第5水準のリーダーたちが行った経営の本質は「適切な人材」の選別、確信と現実直視、世界―戦略、「規律の文化」の醸成に集約される。
 第5水準のリーダーたちは、まず適切な人材として規律ある人々を慎重に選り抜き、その後で目標を立てた。
 規律ある人々で構成される組織は、外部環境の変化に適応しやすく、従業
員の動機付けや管理の問題からも開放される。彼らの戦略は「どんな困難にぶつかっても最後には必ず世界一になれるのだという確信をもつと同時に、自分がおかれている現実を直視する」ということと、「規律ある人々との徹底的な対話を通じて自分たちが世界一になれる分野となれない分野を見極め、なれる分野にエネルギーと情熱を傾注する」という2つの原則を軸に構成されている。
 そして同時に、事業の原動力として最も重要な数値をわかりやすく指標
化し、それを基に事業展開する体制を作り上げている。規律ある適切な人材がいなければ、偉大なビジョンがあっても意味がない。 
 未来を信じると同時に現実を直視し、自らの強みと弱
みを熟知した上で、単純で実行可能な戦略を地道に行動に移す。そのことを、第5水準のリーダーたちは着実に実践した。
 さらに、コリンズらは、グレート・カンパニーの特質として規律の文化を強調している。どの企業にも文化や規律はあるが、規律を文化の域まで高めている企業は多くない。
 規律ある考え
が浸透していれば、事細かな決めごとは必要なくなり官僚制組織は不要になる。また、規律ある行動が常にとられていれば過剰な管理も不要になる。
 規律の文化と企業家精神を併せ
持つことが、偉大な業績の原動カとなるのである。彼らのいう規律の文化とは、規律ある人材、規律ある思考、規律ある行動のことを指しているが、私には「規律の文化」とは「型」であるように思われる。
 日本には古くから理想の行動プログラムとしての「型」があった。型は人を
枠にはめるが、すぐれた型を体得すれば、動きに無駄がなくなり自由が保証される。さらに「型」は獲得するだけで終わりではない。「型」には不断のフィードバックを通じて革新しつづける「修・破・離」という自己超越プロセスが組み込まれている。 
 このような意味で、グレート・カ
ンパニーに飛躍した企業では優れた「型」が共有されていたということには納得がいく。
 コリンズは、アメリ力のインターネット・バブルに対し「企業や経営者にとってカネ(利益)は目標ではなく結果であるという原点が少なからず揺らいでいる」といち早く警鐘を鳴らした。彼が指摘するように、偉大な企業を創業した経営者はカネ以外の社会的な使命感によって経営を行い、その結果資産を得たのでありその逆ではなかった。
 アメリ力型の経営というと、われわ
れは、全てを分析的に捉え「競争に勝つ」という相対価値を飽くことなく追求する経営スタイルを連想しがちであるが、グレート・カンパニーになった企業の指導者たちからは、ー貫して「社会に対する使命」という絶対勝ちを追求する強い意志力が伝わってくる。
 日本企業の原点も、
本来は全体価値の追求というところにあったのではなかろうか。ここで取り上げられたグレート・カンパニーの事例は、グローバルに通用する企業を示唆していると同時に、われわれにアメリ力企業の懐の深さを改めて認識させてくれる。
 「使命感」、「気概」、「情熱」といった言葉が
死語になりつつある時代にあって、本書はわれわれの進むべき道を考え直すよい機会を与えてくれたように思われる。2001年11月

装備部長雑感(第6回):平成23年4月13日付

 これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。
 今回は、一般図書の紹介ではなく、「桜」をテーマにエッセー風に記述しています。

 東日本大震災の発災から1か月。この間、震災及び原発事故等のため昼夜分かたずの対応を余儀なくされ、気がつけば新年度となり早4月も中旬。
 こうした国難たる事態の最中、昨夜来の風雨もあって東京の桜は散り始め、憂愁の想いがいっそう募るのは私だけではないだろう。

 そこで今回の雑感は、これまでと趣を変え、季節柄の「桜」にまつわる個人的想いを記述してみ
たい。コーヒーブレイクにでもー読されたい。


 桜。人に多き想い出を残す花のひとつ。未曾有の大規模震災と断続的余震に国全体がまさに揺れ動く中、今年の桜の開花は、私にとっても極めて印象深いものとなった。

 F-2PCG会合参加を主たる 目的とした米国出張のため成田を発つ日(3月28日)の早朝、いつものように自宅付近をスロージョギング。この時、桜の蓄はようやく先端が色づき始めた状態だった。
 その20時間経過後から帰国間際までワシントンDCの各所で、見事に咲き誇る桜花を観る
ことができた。
 同地滞在中、天候不順だった最終日の早朝を除き同行していた徳重1佐、宮城3佐と共に、気温数度という寒気の中、桜を時折愛でながらのランニングは実に爽快だった。無理やり伴走を頼んだ二人には感謝している。

 米国到着した当日のタ刻、空軍参謀本部A4(レノ中将)から自宅でのタ食会に招待された。ここでも桜が話題となる。
 レノ中将自身から、ワシントンDCの桜(ウェブ資料には苗木3, 020本とあ
る。)は1912年に当時の東京市長・尾崎氏が米国に贈ったもので、今年99年目となる旨の説明を受けたのに加え、市販の関連本をプレゼントされた。
 米防衛駐在官・尾崎1佐から「ワシントン桜物語」の概要について事前に話を聞いていたのでなんとか救われたが、そうでなければ少々恥ずかしい思いをするところだった。次回からは訪問先の地誌等も学習すべきと反省。
 なお、尾崎防衛駐在官が先のレノ中将の説明に関連して、「この99年の間、日米両国間は、戦時をはじめ様々な軌蝶があったが、米国は1本たりとも桜木を切ってはいない」との付言をしてくれた。

 今次の震災において、「トモダチ作戦」等による米国支援が功を奏して事態の改善が図られた暁には、来年の「ワシントンDC桜祭り」に100周年と震災復興の記念としてあらためて桜木を贈ってはどうだろうか。もちろん日本国としてである。

 先週末(4月9日・土曜日)、同期生の法事があって供養のため目黒の菩提寺を他の同期生と共に訪問。4年前に病気のため急逝した塔鼻純也である。
 祥月命日は4月13日。桜の開花が遅れ
る年は目黒駅から先の寺に行く途中には、目黒川沿いの有名な桜並木がある。奥様にしてみると、桜を観るのはただただ悲しいという話を同期生伝えに聞いた。領くしかない。
 ちなみに、彼は松島基地・基地業務群司令が事実上、最後の補職先てあったことから、奥様にとっても松島基地は忘れられない存在。今次の震災でも慰問品を送られたとのこと。

 今週日曜日(4月10日)、桜の見納めとなるやもしれぬとの思いから、都知事選の投票後、妻とニ人で自宅近辺の桜花の観賞に自転車で出かけてみた。
 拙宅周辺には桜新町(サザェさん商店
街で有名。この日は、例年だと「桜まつり」が催され在住の芸能人が出演するのだが、今年は震災のため自粛ではなく「震災復興支援イベント」として開催)、桜町等、桜にまつわる場所が多いところでもある。
 「馬事公苑」及び付帯施設であるJRA敷地内、東京農業大学前の数百メートルに及ぶ桜木のアーチを満喫。今の場所に住み着いてちょうど10年。これほど桜を観て回った年は初めてだった。

 冒頭に書いたとおり、桜に関わる想い出では多い。
 2空団司令時代には、司令官舎(現在は財
務省管理となり更地)の庭にりっぱな桜木があって5月連休ごろには満開となるので、その下で千歳川等で獲った山女や岩魚を骨酒にしながら部下と共に食したこと。
 ハ雲分屯基地司令当時に
は、幼い娘達とー緒に道南の名所である松前城や五稜郭の桜を観に行ったこと。
 平成6年空幕担
当として初めて六本木で勤務した時には、ストレス発散と体重管理のために夜間ランニングを習慣としていたが、そのコースに青山墓地が入っていて、まさか3年連続で名所(?)での駆け足花見ができるとは思っていなかったこと等々。

 想い出を語れば切がないが、桜が葉桜になる前に、各人も桜を観ながら桜にまつわる出来事を回想してみてはどうだろうか。
 最後に、来年こそは靖国の桜花の下で、職場の有志と一緒に大いに春を証歌することを今から望んでやまない。

装備部長雑感(第7回):平成23年5月12日付

 この回は、その1「人的戦力の維持」と、その2「使命の完遂」の2つについて掲載しています。

 その1:人的戦力の維持


 先の震災等への事態対処による影響は異動発令等にも及んだ。3月中旬から新年度を1か月以上も過ぎた、この5月9日付をもってようやく一連の春期異動が落ち着いたようだ。例年にない異動時期の分散化である。
 こうした人事施策を図らなければな
らないほど、多くの自衛隊員が如何に被災現場や支援業務等において中断することがままならない活動に従事していたかが窺える。
 しかし、異動が一時期に集中しなかったことは、装備部(他の部署も同様であろうが)にとって人的戦力の維持という観点では、利があったものと考える。
 年度末から
新年度早々にかけた人事異動において、例年であれば転出入の規模が比較的大きいことから、人的戦力の歴然たるダウンは否めないのだが、今回はほぼ2か月の間に数次にわたり、しかも少人数での入れ替わりだったこともあって、さして気にならなかったというのが正直なところ。
 「さして気にならなかった」には、もうひとつ理由がある。転入者の早期戦力化に対する配慮が見て取れたことだ。私は部内の巡回を好む。時折、『新人(空幕勤務初回の者)』育成の場に期せずして出くわすことがある。また、明らかに新人教育を兼ねて報告に来るケースもままある。これらの事象からは、「人を育てる」「人の戦力化」と同時に「リーダーシップの発揮」「組織への貢献意欲」も感じ取れることができ、清清しいとすら思えるのである。

 そこで今回は、「人材育成」に着目して、後記案内(『人を育てるトヨタの口ぐせ』(OJTソリューションズ、中経出版)の図書からその一部を抜粋したものを添付。
 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範疇であり、個人的な関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、公私にかかわらず役立ててもらえるならば幸甚。


 「人を育てるトョタの口ぐせ 」(OJTソリューションズ 中経出版)

 第1章 「リーダー」を育てるトヨタの口ぐせ

1 おまえ、あそこ行ったか俺は行ってきたぞ
〇トップ自らすぐに現場に行く、まさに率先垂範
〇「付加価値を生む現場がいちばん大切」。だから、トップ自らが現場をこまめに見て歩く

2 者に聞くな、物に聞け
〇部下からの報告に頼っていけない。管理監督者は現場を見なさい
〇トヨタでは「三現主義」といって、現地・現物・現実を大切にしろ

3 現場は毎日変化させないといけない
〇無駄をなくすために改善をやる、現場はどんどん変わる
〇作業者が楽になるために改善する、現場はどんどん変わる
〇整理整頓のためにも、現場はどんどん変わる
〇昨日よりも良い現場をつくるために、リーダーは日々、努力しなさい。現場を毎日、変化させない

4 流されるな、自分の仕事はもっとあるだろう
〇管理監督者は「火消し」にかかりきりではない
〇毎日、深夜+二時まで残業する監督者。これはまずい。
〇リーダーの仕事は、火事を消すことではない。火事が起きない仕組みをつくることである

5 リーダーは、やらせる勇気メンバーは、やる勇気
〇思い切ってやってみたからこそ、見えてくることがある
〇ただし、リーダーは、いざのときの保険もかけておく
〇「自分(リーダー)が責任を持つから、思い切ってやってみろ」ただし、いざのときの保険はかけておく

6 やってみせ、やらせてみせ、フオローする
〇「やってみせ、やらせてみせ」だけでは、部下は育たない
〇「私はこう教えました。それはこの現場でやっています」と言えるまで指導する

7 とんがった人間を入れろ
〇問題を解決できる人は、必要である。問題を発見できる人は、もっと必要である。とくにこれからの時代は。

 第2章 「できる人」を育てるトヨタの口ぐせ

8 すべてをお客様から考えてみる。すると、ものづくりの奥の深さが見えてくる。

9 何もしないより何かやって失敗したほうがいい
〇「やってもいないうちに、なぜできないと言えるのか」
〇何かやって失敗したほうが勉強になる
〇とにかくまずはやってみる。やってみることで、問題点が見えてくる。難しい問題であれば、みんなで考える。

10 六割いいと思ったらやれ
〇「六割」だと、人は動きやすい。
〇失敗を恐れて、なかなか行動に移せないときは 「六割いいと思ったらやれ」と口に出してみる。

11じゃあ、二週間後に来るから
〇期限を決めたら、部下は必ずやってくれるものです
〇期限が来るまでは「頑張れよ」だけ。上司は口出ししない。
〇期限が来たら上司は必ず見に来る。自分の指示を忘れることはない。
〇上司は任せっぱなしではなく、 「自分ならどうする」も考えておく
〇すべての仕事に期限を決める。期限が来たら、きちんと見て評価する

12 スタッフは二つ上で見なさい
〇自分がいまいるところよりも、高い視点に立ってみる
〇いまよりも二つ上の視点に立ち、これまでの見方をがらっと変えてみれば、まったく新しい発想が生まれます。たとえば、3,-'-,5年後の目標として「生産性を倍にしよう」
「段取り替えの作業時間を半分にしよう」といった考え方です。目標は中長期で立て、そこから「3年後には~」 [2年後には~」 [1年後には~」と明確にしていく。そうすることで、一貫性のある目標計画とし、遅れや進みがわかるようにしておくことが大切」

13 縦にたくさんできる人は横にたくさんできる人よりもいい
〇「多能エ」は縦にたくさんできる。 「多台持ち」は横にたくさんできる
〇たくさんの「種類」の仕事ができる人、たくさんの「量」の仕事ができる人、前者のほうが、活躍する場が広くなる。

 第3章 「コミュニケーション」をよくするトヨタの口ぐせ

14 陸上のバトンリレーのようにやりなさい
〇「自分の仕事」と「人の仕事」との間に、バトンリレーをもうける。お互いに助け合うことで、仕事はどんどんうまくいく。

15 横展しよう
〇「よい」と思ったことは、お互いに盗み合って切瑳琢磨する。そのためには、異なる職場同士の活発なコミュニケーションが必要。

16 とにかく思ったら「創意工夫」に提案しなさい
〇トヨタには「創意工夫」という制度がある
〇「自分が考えていることを採用してもらえる」
〇部下の提案がヒントになる。それをどんどんやってみる
〇「こうしたらいい」と気づいたことを、どんどん提案する。みんなで、「工夫の種」を出し合う。

17 ヒヤッとしたこと、ハッとしたことはすぐに報告しなさい
〇すぐに手に入るもので、すぐに対処する
〇日常の「ヒヤッとしたこと」 「ハッとしたこと」を見過ごさず、みんなでその情報を共有し、事故を防ぐ

18 今日はこれを守ろう
〇朝礼で「今日はこれを守ろう」、タ方に守れたかどうか自分でチェック
〇会社として守るべきルールは、さまざまな場面・手段を利用して社員の一人一人に徹底させる

19 ネットワークをつくれ
〇トョタでは、横のネットワークがすごい
〇所属部署を超えた「横のネットワーク」をつくる。いざというとき、日々の仕事に生きてくる

 第4章 「問題」を解決するトヨタの口ぐせ

20 マルを描いて立っていろ
〇動いてしまうから見えない。動かずに見るとムダが見えてくる
〇「動いている」一「仕事している」という思いこみを正す
〇「動かず」に的を絞ってみると、見えてくるものがある。

21 モグラがよく出るところから、まず手をつけなさい
〇何回も出てくる不具合から、真っ先に潰していく。そして「修繕」ではなく「修理」をする

22 データで仕事しようワーストから潰そう
〇現状を洗い出し、データを分析する。それが問題解決の基本です
〇ワーストから潰すことを考える。ただし、重要度・緊急度の高いものから潰す
〇勘と経験だけでは、うまくいかない。データに基づく正しいやり方で、問題を解決す

23 真因をさがせ
〇問題が起きる、 「要因」をあげる、 「真因」はどれか
〇不良品の発生を再現することで、真因を探す
〇なぜ、その問題がおきているのか。いくつかの「要因」をあげ、そこから「真因」を見つける。

24 改善は巧遅より拙速
〇どんなに優秀で人望がある人でも、行動が遅ければ評価されない
〇「そんな幼稚なことを…」、でもやってみると素晴らしいアイデア
〇「階段一段でもいいから、とにかく先に踏み出しましょう」
〇「もっといい方法を見つけてから・・・」よりも「思いついたらまずはやってみる」のほうが道は開ける。

 第5章 「会社」をよくするトヨタの口ぐせ

25 売れるスピードより速くつくらない
〇売れるスピードより速くつくらない。それがジャスト・イン・タイム

26 一円でも安く、ものができんか
〇一円でも安くものをつくるために、知恵を絞る。ただし、それは材料を安く仕入れることではない。

27 一週間ものが動かんかったら捨てろ
〇「要るもの」と「要らないものの」の判断基準をどう定めるか
〇「使うもの」と「使わないもの」を徹底して分ける。 「もの」を少なくすれば「もの」が見えてくる

28 事前の一策、事後の百策
〇早めに手を打てば、 「一策」で0K。事がおきてからは「百策」が必要。
〇人は想定外の動きをすることがある。だから「事前の一策」が必要
〇かつてどんな失敗をしたか、そこから何を学んだか
〇早めに手を打てば、やることが少なくてすむ。後手に回ると、やるべきことが多くなる

29 誰がやっても同じものができる
〇「見て盗め」から「誰がやっても同じことができる」へ。標準があることで、会社は大きくなれる。

30 自分が楽になることを考えろ
〇標準書は、上司も部下も「楽して働ける」ためになる
〇標準書には、熟練作業者の「楽して働ける」コツが書かれている
〇仕事の作業手順を決めた「標準書」をつくる。上司も部下も、楽して働けるようになる。

31 自社の「基準」は何か
〇在庫を減らしたい。そう思うなら、自社の「基準」を持ちなさい。
〇自社の「基準」づくり、その基本的な考え方
〇「自社の基準」がなければ「自社の問題」は解決できない



 その2:使命の完遂

 皆はゴールデンウイーク(GW)をどのように過ごしただろうか。代休等を消化し自らの休養と家庭サービスに努めた者、趣味趣向に明け暮れた者、漫然と時を見送った者、休日にもかかわらず出勤して業務処理に時間を費やした者等、様々であったと思うが、各々が英気を養えたものと信じたい。
 GW期間中も、連日マスメディアを通じ、自衛隊の震災対応等について賞賛と高評価を幾度となく見聞きした。むしろこうした動向は日々高まっていっているようにも思える。

 こうした自衛隊を取り巻く情勢の変化を受けて思い出したことがある。それはフランスのドゴール将軍がサンシール士官学校入校式での訓示『士官を目指すものが覚悟すべき軍職の特質』 の一節である。

「…軍職は、世間的な価値変動がとりわけ激しい職業である。戦争の時代は過度に尊重され、平和な時代になれば過度に軽視される。時代によって社会的評価が大きく変化する。社会的地位が上下する。それだけに、士官たるべきものは、永い戦争に耐える勇気とともに、永い平和に耐える勇気が必要である。永い平和の中で戦争に備え続ける忍耐が重要である。“平和な時代に甲胃をつける身のなんたる苦渋ぞ。されど、いつの日か我らが草摺りに、すがりつき、わが祖国を救えと懇願される日が必ず来るであろう” …」

 これは新聞の切り抜きのはずという不確かな記憶があるだけで、新聞社及び記者名、題名等は不明。よほど感銘を受けたのか、いまだに拡大コピーを大切に持っているので、記事の一部であることには間違いない。入手してもう15年以上経つだろうか。

 以前にも一度だけこの記事を利用したことがある。千歳基地司令職にあった時に、2空団あるいは当該基地に所属する隊員とのコミュニケーションを図ることを主たるねらいとして、団司令(あるいは基地司令)メッセージを緊要な時期に発信していた。
 ちなみに下記『団司令かわら版第2号(20. 2. 22)』が当時使用した “新聞もどき”の写しである。
 
 当時の自衛隊に対する風当たりは、今次の震災等に対する評価とは『真逆』であっ
た。これら2つの事象は、ドゴールが対象にしている戦争と平和といった情勢・状態とは異なるが、自衛隊組織にとっての順境及び逆境と置き換えてみれば、まさに社会的評価、社会的地位がこれほど大きく変動するものかということをあらためて痛感した次第。

 こうした思いから、先のドゴール将軍の訓示にふたたび大きく領かざるを得なかった
わけである。
 これからも 『得意淡然 失意泰然』 の心境を抱きつつ、「航空自衛隊の基本理念」の筆頭に掲げられている「国家の主権保持・国民の安全確保」を銘記し、使命の完遂を常に目指すのみ。


団司令かわら版第2号(平成22年2月22日)

 「道民との信頼関係の確保と報告・指示等の徹底」

 今次、海自イージス艦衝突事故が生起したことにより、これまでの情報漏洩事案等をはじめとする各種不祥事と相まって、防衛省自衛隊に対する批判が各方面で相次いでいるのは知ってのとおりである。
 かかるように各自衛隊にとっては、いわゆる逆風の中での任務遂行となりがちではあるものの、第2航空団において勤務する者は、悲観することなく、また決して自虐的にならず、各人与えられた任務と組織としての崇高な使命を全うして、地域住民、道民ひいては国民の信頼確保に努めていかなければならない。
 また、先の不祥事と同種の事案を再び起こさせないためにも、各人は今一度「適時適切な報告・指示」の重要性について再認識するとともに、各種連絡体制の確認に関しても徹底を期されたい。
 来週、第2航空団は米軍の訓練移転に伴う日米共同訓練を実施することになる。まずは本訓練について所望の成果を挙げ、無事に終了することに全力を傾注したい。その上で、用意周到、万全の態勢のもとに、2回目以降の訓練移転がらみの日米共同訓練、レッドフラッグ演習、そして7月の洞爺湖サミットにそれぞれ積極的に取り組んで行こうではないか。
 なお、先述の事案等とは直接的には関係ないが、ぜひ全ての隊員がより一層の強い精神力を涵養してもらいたいことから、あくまでも参考資料として以下の新聞記事の一部を提供するもの。

〇参考:
 「サンシール士官学校入校式におけるドゴール将軍の訓示『士官をめざすものが覚悟すべき軍職の特質』の一節である」

「・・・軍職は、世間的な価値変動がとりわけ激しい職業である。戦争の時代は過度に尊重され、平和な時代になれば過度に軽視される。時代によって社会的評価が大きく変化する。社会的地位が上下する。それだけに、士官たるべきものは、永い戦争に耐える勇気とともに、永い平和に耐える勇気が必要である。永い平和の中で戦争に備え続ける忍耐が重要である。“平和な時代に甲胃をつける身のなんたる苦渋ぞ。されど、いつの日か我らが草摺りに、すがりつき、わが祖国を救えと懇願される日が必ず来るであろう”…」

装備部長雑感(第8回):平成23年6月2日

 この回は、その1「テロ対策の本格検討を切望!」と、その2「テロハンドブック、そんなものが!?」の2つについて掲載しています。


 その1:テロ対策の本格検討を切望!

 先月2日、米国の特殊部隊が、国際テロ組織「アル・カーイダ」指導者ウサマ・ビンラーディンを急襲殺害。その衝撃的なニュースは世界を駆け巡った。我が国でもマスメディアは挙って一大事件として取り上げた。
 しかし、未曾有の震災及び原発事故
への対応最中であったためか、国内における関連報道の継続性は、英字新聞に比して薄かったように思える。

 あれから1ケ月が経過。報復テロが、パキスタン、アフガニスタンを中心に連続して発生している。ビンラーディンの『排除』が、テロ脅威の『覚醒』を招いたかの如く。こうした新たな「テロの戦争」について、特に米国(米政権)は掃討作戦を強化、徹底していく構えであるのは周知のところ。
 この場合、テロ対策に関して世界主要国と協調姿勢をとる我が国は、特に米国の同盟国として、国内におけるテロ対策の充実、国外における連帯的活動をこれまで以上に主張していくことになるのだろう。

 さすれば、自衛隊にとって、国内におけるテロ脅威への日米共同対処がいずれまた大きな関心事にもなることが予測される。また、国外にあっては、海賊対策の強化を目的に、ジプチに所在する「航空隊(海・陸自隊員から構成)」を本格的な海外基地として運用されることとも相侯って、国連のPK0等における物資や人員の輸送・後方支援の役割を大いに果たすことになるだろう。
 ただし、こうした国内外での関心や評価が高まれば高まるほど、我が国が国際テロの脅威に晒される危険性も増すとの懸念が私の中で強まっていくのである。

 このことから、我が国は、あらためてテロ対策に①国内(国民の生命・財産の維持)と国外(国益の保護と国際協調)②反テロ(防勢的テロ対策:情報能力の強化、基地警備の強化、経空テロへの対処、捜索・救難、サイバーテロ対処能カの付加等)と対テロ、いわゆるカウンターテロ(攻勢的テロ対策ノ:同盟国等の共同作戦に対する後方支援、テロ組織の補給路の遮断等)③当面の措置と中長期的措置、それぞれの観点から真剣に取り組むべきと私は思うのだが・・・。


 その2:「テロハンドブック」、そんなものが!?

 ウサマ・ビンラーディンの殺害時から遡ること約10年。平成13年9月11日、米国においてハイジャック機によるテロ破壊活動が生起。世界貿易センタービルの倒壊、国防総省の建物の一部損壊等、推定6千名以上が尊い犠牲となった。

 当時、私は空幕防衛課研究班長職にあった。当該事件発生後、空自としては、テロの脅威に関する認識を深めるとともに、特に航空機等によるテロへの対応措置、並びに研究班の所掌事務のひとつであった「航空警備」について、早急に検討する必要があった。このため私は部下と共に関連情報の収集を目的に他省庁も含む関係部署との意見交換を始めていた。

 こうした中、防衛部長の命により、突如テロ関連の図書を作成(この作業を担当したのは、私以外では班員だった現・空幕防衛調整官の高橋1佐だけだった。)することとなった。当時の作成の趣旨及び目的は、以下のとおり。

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 テロリズム関連図書の作成について(13. 10. 19)

1 趣旨
〇9月11日米国同時多発テロ発生に鑑み、関連主要国はこれを新たな安全保障上の脅威と認識し、ドクトリン、戦略及び政策等の見直しに着手しようとしている。
〇他方、我が国においても政府は現在、新法及び自衛隊法改正の各案を臨時国会で可決することで我が国の立場と姿勢を国内外に明らかにしつつある。
〇また米国によるアフガンへの連続的な空爆と相侯って、国内では従来以上に集団的自衛権の行使等、我が国安全保障のあり方を巡って議論が展開される一方で、今後は国家の平和・安全の維持を目的とした具体的なテロ対策及びそのための態勢整備が重視されるものと予測される。
〇かかる状況から、空自においてもテロリズムに関する共通認識を確立するとともに、基本的知識を共有し、今後の関連法規の整備及び事業化等にかかる検討に資するため、軍事力行使をも視野に入れた本格的な対策検討が必要との主張を軸に、国際テロの一般動向、我が国における同種テロ発生の危険性等について概観する関連図書を早急に作成することが必要である。

2 目的
 空自としてテロリズムに対する措置を講ずるに当たり、今日的な一般知見を超えるテロリズムの概念、歴史的考察、現状及び今後の傾向、並びに一般的な対策を理解するとともに、今後空自が実施すべき具体的対策の案出及び事業管理上の資とする。

3 作成要領以下、省略
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 この結果、出来上がったのが、「テロハンドブック」である。高橋3佐(当時)のおかげで、極めて至短時間(2週間程度と記憶)で作成し、同年11月9日付で空自全部隊等に配布することができた。その後、防衛課研究班が廃止となり、当該事務は同課防衛班に移管されたが、この「テロハンドブック」更新に関する作業はいまだ実施されていないはず。
 しかしながら、その内容は今日でもテロの本質を概観するには参考になるものと確信している。ぜひ、業務処理で忙しい中ではあるが、一読されんことを期待。
 なお、
このことは「装備部の将来展望」のうち、組織理念のーつの項目である『作戦体質の維持』という点でも有意義であることを付言しておきたい。

 最後に、米国同時多発テロを通じて、その脅威と将来課題について、当時の防衛課研究班がどのような認識にあったかを知るノン・ペーパーを、以下に添付する。
 これも一読の上、この10年間に当時の課題が解決に向けて、どのような取り組みがなされたかを調べてみてはどうだろう。私としては、抱える課題が国策・政策に関与する度合いが大きく、かつ難儀なものであればこそ、中長期的なビジョンのもと、計画的に、そして組織的に取り組むことの大切さを説きたい。

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米国同時多発テロに関する脅威認識並びに今後の課題等について


1 米国同時多発テロ事件の概要
 (省略)

2 本事件(脅威)に対する基本認識

(1)今回の事件は、入念な計画に基づくハイジャック機利用の自爆テロ行為が招いたもので、いわば「新世紀の新たな脅威」が引き起こした平時の惨劇である。
(2)これまで想像し得なかった大量破壊(殺人)兵器が現出したことで、本事態が起きた9月11日は新たな戦いの形態が最悪の結果として現実のものとなった歴史的な日である。
(3)この自爆型ハイジャック・テロは、世界各地に潜在するテロリスト・組織に対して、この効果の絶大さを啓蒙したと言え、将来的にも同種事案が再発する可能性は極めて高い。
(4)これに対して、米国は最近同種テロを意図したハイジャック機を撃墜する大統領権限を条件付きで空軍高官に委任する措置を講じたものの、自国民等の犠牲を払うことなく、この脅威を排除する決定的方策は見出せない状況にある。
(5)このような認識に立ち、我が国としては、こうした新種の航空脅威を未然に防止又は阻止し、国民の生命・財産を保護し、国家の平和・安全を維持するための措置を講ずることがまさに喫緊の課題である。

3 同種の脅威に対処するに当たっての我が国が抱える問題点
(1)国際法上
 ハイジャック行為に対しては、「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」、並びに「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(モントリオール条約)」が制定されているが、強制的排除という観点では自爆型ハイジャック・テロに対する効力は有していない。
(2)国内法上
 一方、国内法上の整理では、前項で述べた2つの国際条約の下、「航空機の強取等の処罰に関する法律」、並びに「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」を既に制定しているが、犯罪行為に対するこれら条約の適用要件、刑罰の内容などの規定にとどまっており、自爆型ハイジャック・テロに関連する条項は含まれていない。
(3)自衛隊法上
ア 領空侵犯に対する措置については、自衛隊法第84条の中で、我が国が国家として行い得る領空侵犯の取り締まり行為と、そのために必要な権限の行使を自衛隊が行うことを規定している。(条文は、「参考1」に示すとおり。)
イ しかしながら、自爆型ハイジャック・テロを我が国に照らしてみると、我が国領空内の航空機については、隊法第84条で規定される法律要件を満たさないため武器を用いて対処することは、現状では不可能である。
ウ したがって、我が国領空において民間航空機がハイジャックされた場合の防衛庁自衛隊の初動としては、防衛庁設置法第5条第18号に基づき調査・研究又は隊法83条災害派遣の一環として、情報収集のための緊急発進を行うにとどまらざるを得ない。

4 今後の課題
(1) 新たな脅威に対する認識の共有
自爆型ハイジャック・テロは、平時において何時如何なる時に発生するか予測することが極めて困難な敵性行為の一形態として確立し、我々はこのことを十分に認識することが不可欠である。将来、不特定のテロリスト・組織が高度の文明社会・国家に対して同種テロを断続的に惹起させる懸念があり、我が国がその対象となることは大いに考えられることである。
(2) 関連法規の整備
ハイジャックされた民間航空機が飛行中である場合の具体的な対処要領について、国際法、国内法の両面から関連法規の見直し又は新規に立法化する必要がある。
官民を間わず乗客等が航空機に搭乗する段階においても、同種テロ発生の予防・抑止の観点から、従来の機内乗り込みなどに係わる要領を見直すべきである。
防衛庁自衛隊にあっては、当面、隊法第84条の中で定義する領空侵犯機とハイジャック機との法的整理をつけ、自爆型ハイジャック・テロにも有効に対処することを可能とすべきである。
(3)自衛隊における部隊行動基準の適用
民間航空機を領空内で撃墜するといった事態については、最高レベルでの政治判断が必要不可欠であるとともに、これを受け形で自衛隊としては至短時間で適確に対処する必要性から、部隊行動基準(目的等については、「参考2」に示すとおり。)を事前に定めることが緊要である。

参考1:自衛隊法第84条(領空侵犯に対する措置)
「長官は、外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。」

参考2:部隊行動基準(防衛庁訓令から抜粋)

〇部隊行動基準は、国際の法規及び慣例並びに我が国の法令の範囲内で、部隊等がとり得る具体的な対処行動の限度を示すことにより、部隊等による法令等の遵守を確保するとともに、的確な任務遂行に資する事を目的とす
〇部隊行動基準は、状況に応じて部隊等に示すべき基準をまとめたものであって、行動し得る地理的範囲、使用し又は携行し得る武器の種類、選択し得る武器の使用方法その他の特に政策的判断に基づく制限が必要な重要事項に関する基準を定めたものである。

装備部長雑感(第9回):平成23年7月4日付

 この回は、官製談合に関する防衛大臣への報告が終わった際の所見等について掲載しています。

―官製談合にかかる大臣報告の終わりにあたりー


 週(6月最終週)当初から一昨日(6月29日)までの間、装備部主管の業務を三役へ報告した。昨年12月14日付発簡の第1補給処談合事案に起因する補給・整備組織の見直しに関する防衛大臣指示に応える内容のものであった。
 今次の報告は、組
織見直し上の改善措置全体からみれば「基本構想」として位置づけられるだろう。
 
 思い返せば、着任早々からこの後方組織の見直しに本格着手。しかし、当初から作
業は難航、将来予測が立たず悩みの耐えない日々が続いた。少しずつ部隊等との連携にも成果が見え始め、見直しの方向性が定まりかけたのは、先の大臣指示が発出された頃だったろうか。
 その矢先の発災(*東日本大震災を意味します)だった。それでも見直し検討に大きな遅れを生じさせなかったのは、装備部内においてこの業務を担当する者はもちろんのこと、部内外で直接的、間接的に協力支援してくれた多くの者のおかげである。心から敬意を表したい。

 話は先月29日の大臣報告の場面に戻る。
 私から組織見直し案を一通り報告した後、
空幕長が同種事案の再発防止体制整備に併せてコンプライアンスを徹底する旨を即座に発言。これを受け、防衛大臣は「分かった。前空幕長も何度も来られた。いろいろとご苦労様。これがしっかり機能するようにしてもらいたい」とコメントされた。
 
 見直しの成案が了承された瞬間だった。その時、私は外薗前空幕長に思いを馳せた。
前空幕長は現役当時、「談合事案における再就職の自粛に関する件だけは、なんとしても緩和、できれば回避したい」旨を部長懇談の場で常々言われていた。その強い思いを持って大臣室に幾度となく足を運んでおられたのだろう。こうした行動と真撃な態度が大臣の心にしっかり刻まれていたからこそ、大臣から開口一番、先の言葉が発せられたのだと思う。
 
 私は、この事を見直し内容には触れることなく、前空幕長にお便りしようと思って
いる。再就職自粛解除にはまだまだ時間がかかるが、前空幕長がいかに部下隊員を尊重されていたか、またこの事を大臣もよく理解されていたかが、これほど身近に感じられたことはなかったと、どうしても伝えたい。

 報告を終え部長室に戻り、あらためて「装備部の将来展望」を開いてみた。5つあるビジョンのうち、談合事案にかかわる部分は、以下のとおり。

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「装備部の将来展望」(9頁)
(3)装備部は、近年発生した官製談合を始めとする後方部門にかかわる不祥事に関しては、抜本的対策を講じ空自に対する部内外の不信感を払拭するため、中心的役割を果たすことが必要である。
  当面は、官製談合の原因を排除すべき各種改善策の積極的な推進と共に、第1補給処を始めとする後方組織の見直しを図り、関係機能のさらなる充実に努める。
  また、特に調達関係職員が適正な業務に専念し得るよう、我が国民間企業及び欧米の軍隊が導入し成果をあげている内部統制制度等の業務適正化のためのシステムを構築する。
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 ビジョンの達成度からいえば、まだまだ道半ば。それでも間違いなく装備部は、不祥事の解消、再発防止を目的とする新たな体制構築の中心的役割を果たしている。大臣の了承を得た組織の見直しは、将来実現させるべき補給処等の健全な隊務運営の全体像からすれば、ひとつの節目にしか過ぎないが、意義ある大きなステップと言える。
 
 大臣への報告日と前後するが、本事案を担当する政務官からは「これからの実
行、実現が重要だ」との指導を得ていた。まさにそのとおりである。私自身、装備部長の職にある間に、ぜひとも新体制実現の目処をつけたい。

 「装備部の将来展望」の中で、談合事案対処にかかわる記載部分は実はもう一箇所ある。それが以下の部分だ。

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「装備部の将来展望」(5頁)
ロ装備部が所掌する事務等を遂行するに当たっての諸環境の分析
2 編成上
 ………
 また、喫緊の課題として、第1補給処官製談合の改善措置のー環として、補給本部及び補給処の抜本的な組織改編を余儀なくされている。このため、同種事案の再発防止を図るという観点はもとより、これまでの補給処等の機能発揮上の課題を解決する点も含み、M2改編事業との整合を図り早期に関係組織の改編を行わなければならない。
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 M2改編の枠組み利用によって、後方関係部隊のみならず空自組織全体の見直し事業として機能的な取りこぼしのないように取り組むのだと主張した部分である。
 この点について装備課に指示することを思いついた時には、新たな検討枠組みを整備するための幕内展開がすでに図ちれていた。さすがに手回しがいい。先見性に富んだ素早い措置に感心した。この調子ならば、不祥事による負の遺産を整理し、より効率的で健全な補給調達体制の実現は、さほど遠くはあるまい。

 昨年夏、着任申告の際、外薗前空幕長から「後方の元気付けをすることがおまえの役割だ」と言葉をかけられたことを今でも忘れない。これまで後方基盤の構築に関連する業務に従事したことがないのだから、部下のはるか“後方”から遅れてスタートする自分を叱吃するのが精一杯なのに、さてどうすべきか。これが私の悩みだった。
 
 先の大臣報告を境に、任務遂行上の自信とまでは到底言えないが、装備部が本来持
っている実力に追い着ける確かな感触が得られた(ような気がする)。あらためて諸官に感謝の意を表したい。

装備部長雑感(第10回):平成23年8月1日付

 これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載していたものです。
 今回は、「空自の品質文化を発信」と「毎年8月が来ると思い出すこと」の2点について、記述しています。


その1:空自の品質文化を発信!

 財団法人「日本科学技術連盟」が発行している月刊誌のひとつに「クオリティ マネジメント」(以下、「QM」)がある。この呼称は2002年1月から使用されているが、前身の「品質管理」誌は1950年3月創刊の老舗的存在。
 空自が『品質管理の実施に関する達』を1969年に制定、『装備品等品質管理規則』 として改正したのが1976年であることを考えると、QM誌に畏敬の念を感じる。

 このQMから、空幕長へのインタビューに加え、本職による投稿の依頼があったのが6月始め。空自の品質管理に関する各種制度や関連する部隊活動等を広く世間一般に知らしめる絶好の機会と捉え、執筆を決意。
 知ってのとおり、私は補職歴上、品質管理はおろか航空装備品、中でも航空機の整備に精通していないこともあって、脱稿までは正直不安。こうした中で装備部関係者の協力を得つつ執筆の準備を進めている。締め切り期限は9月下旬。

 投稿記事には、2空団司令時代に積極的に関与したQCサークル活動の効果や現職では整備課基準班が推進している作業品質管理制度のねらい等、わずかであっても品質管理に関わる職務経験を織り込むつもり。
 また、品質管理の追究自体が空自の任務遂行と密接な関わりを持つことを分かりやすく説明し、さらには絶え間ない品質向上の意思・意欲が空自及び空幕装備部の基本理念等にも通じるとの表現ができないものかと思案しているところである。
 この投稿によって、品質管理に関する空自の組織文化や航空装備品等の整備・補給に従事する隊員の作業取組み意識・姿勢を関係方面にぜひ伝えたい。

 なお、実際の投稿記事については、このホームページで、「現役時代の主張」→「その他」→「航空自衛隊の品質文化とその将来展望」の順でアクセスしてください。

その2:毎年8月が来ると思い出すこと

 航空装備品の品質管理と言えば、昨年11月政府専用機事業関連で羽田を訪れた際に、その重要性をあらためて思い知らされる機会を得た。それは、「日本航空安全啓発センター」の中に整然と展示されていた。御巣鷹山墜落事故の関連部品や遺品の展示等である。墜落の直接原因となった後部隔壁の部位が特に印象に残っている。
 当該部位の不適切な整備補修が致命的な欠陥となり、あの惨劇を招いたのである。この我が国航空史上最悪の事故が発生したのが、猛暑の8月であった。

 当時、私は新隊員教育隊(熊谷)の区隊長(臨時勤務)職を終えると同時に結婚、派遣元部隊である第1高射隊(習志野)に復帰した直後だった。
 1985年8月12日タ刻以降、頻繁に日航機不明のテロップが流れ、空自RF機から墜落現場を視認したとのニューづくもあったと記憶している。明けて13日早朝から陸自ヘリの飛来音がひっきりなしに聞こえていた。
 これらヘリ編隊に搭乗していたのが、人命救助のため御巣鷹山に向かう空挺部隊(本書中に、当時の指揮官は岡部2陸尉とあるのは、私と防大同期生の現・陸幕教育訓練部長の岡部将補)であったと後日知ることになる。

 そこで、今回は、『風にそよぐ墓標』〈父と息子の日航機墜落事故〉(著者:門田隆将、出版社:集英社)という題名の図書を選定。
 以下に、本書の「はじめに」の書き出し部を抜粋したので、当時の国内外情勢等を思い起こしてもらえるのではないだろうか。

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 暑い夏だった。
 なぜあれほど、あの夏は暑かったのだろうか。
 1985年8月。思えば、あの頃の日本は力強さと勢いに満ちていた。
 この年を境に始まる円高ドル安によって、ジャパンマネーは世界経済を席捲し、敗戦国ニッポンがついにその「復讐を遂げた」とまで西洋のエコノミストに評されるようになった。
 戦後政治の総決算を唱えた中曽根康弘首相は、靖国神社の公式参拝に向かって突き進み、 それを阻止しようとしたマスコミ・ジャーナリズムとの間には、仁義なき戦いが繰り広げられていた。
 “闇将軍”田中角栄が2月に脳梗塞で倒れ、その呪縛から解き放たれた中曽根首相は、やっと自分の思い通りの政治をおこなえる嬉しさと自信を全身に漂わせていた。
 プロ野球では、バース・掛布雅之・岡田彰布のクリーンナップが絶好調の阪神タイガースがペナントレースのトップをひた走り、高校野球では、桑田真澄・清原和博のKKコンビを擁するPL学園が満を持して夏の甲子園制覇を狙っていた。
 高度経済成長の残滓が、最後ともいうべき光芒を放っていたこの年、日本は、がむしゃらに疾走していくその先に、明るい未来があることを信じて疑わなかった。
 そんな時、航空史上未曾有の悲劇が発生した。
 8月12日午後6時56分、羽田空港発伊丹行きの日本航空123便が、群馬県多野郡上野
村の御巣鷹の尾根に墜落したのである。
 折りしも、お盆の帰省ラッシュとも重なり、行楽客や企業戦士たちで満席の同機は、乗員乗客524人の内、実に520人が犠牲となった。単独機としては、史上最大の事故である。
 遺族の哀しみと苦しみは想像を絶した。
 ………
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 本書の第1刷発行は昨年8月12日。墜落事故からちょうど四半世紀が経過したことになる。帯には『男たちは、なぜ語らなかったのか。彼らが胸の内を吐露し始めるまで四半世紀の歳月が必要だった一。遺族たちが辿った不屈の物語』 と宣伝文句が記述されている。
 しかし、著者がこの壮絶なドキュメントを介して訴えたかったのは、『人生は歎難辛苦を乗り越えてこそ』『人生を全うすることの大切さ』ではないのだろうか。こうした私なりの理解は、以下の抜粋文からも読み取れるはず。


①「本書に登場するのは、6家族だけである。悲しみのどん底に突き落とされた多くの家族の中のほんの一部に過ぎない。しかし、この6家族が辿った四半世紀におよぶ不屈の物語は、人生に悩み、挫けそうになった人々に、必ず勇気と希望を与えてくれるものと私は信じている。」(「はじめに」の一部抜粋)
②「毅然として生きた息子たちの姿を是非、自分たちの勇気と希望の指針にしていただければ、と思う。哀しみの「時」は、いつまでその針を刻み続けるのだろうか。最愛の人を事件や事故で奪われた家族は、どうやって絶望を克服できるのか。
この二つの間いに対する答えは、本書で取り上げさせてもらった6編の「父と息子」の物語にすべてヒントが隠されているように思う。」(「おわりに」の一部抜粋)

 最後に、本書の2頁に象徴的に記載されている一文を紹介。これは著者が本書を介して読者に伝えたいメッセージを集約、端的に表現しているものと考える。

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絶望と悲哀と寂寞と耐へ得らるる如き勇者たれ
運命に従ふものを勇者といふ

田山花袋

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 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範瞬であり、個人としての関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、役立ててもらえるならば幸いである。今回紹介の本については、いつでも貸し出し結構。次回は「本番に強くなる」(著者:白石豊、出版社:筑摩書房)を予定。

装備部長雑感(第11回):平成23年9月9日付

 これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。
 今回は、『組織力を高める』(出版社:東洋経済新報社)という題名の図書を以下の理由等から選定。



「プレッシャーをパワーに変える!」

 防大アメリカン・フットボール部に入って2年目の春。防大グランドでの慶応大学との春季対抗戦。当日は緊張はしていたが体調も良く、ディフェンス・ポジション(CB)でも自信を持って試合に臨んでいた。試合は後半に入り、防大が1タッチダウン(TD)奪取できれば逆転の状況。
 ここでのひとつのプレーが今でも私のトラウマになっている。クォーターバック(QB)は、オフェンス・ポジションではレシーバーだった私へのパスを選択。私はデザインされたとおり定められたパスレシーブのコースを疾走、絶好のタイミングのミドルパスが私の右脇腹付近に構えた両手にすっぽり(と思った)。エンド(TDゾーン)まで15ヤードだったろうか。
 いずれにしても目の前に逆転ゾーンが見えていた。歓
喜の瞬間は一転、楕円形のボールを落としてしまったのだ。おそらくボールを弾いたのではなく、捕球が不完全だったにもかかわらずランニング姿勢に移行するため両手を持ち替えようとして、ボールが手につかなかったのだと思う。
 以降、スポーツにしろ、仕事にしろ、プレッシャーがかかると、そのときを思い出す。ちなみに、当該試合の防大QBは4年生だった現空幕副長の中島空将である。

 これまで自分は何て本番に弱い人間かと嘆いた経験はないだろうか。私の場合は、中高大と勉学からクラブ活動にいたるまでプレッシャーに弱い傾向が強かった。その最たる「事件」が冒頭のパス・ミスである。今でも夢を見てしまうくらいだ。そのたびに、個人のミスはチーム自体の敗北を招く、絶対にやってはならないと自分に言い聞かせている。

 そこで、今回は「本番に強くなる(著者:白石豊 出版社:筑摩書房)」を紹介する。この雑感の表題は、帯に書かれたコマーシャル・フレーズである。本の章立ては、以下のとおり。

 第1章 実力発揮のメカニズム

 第2章 プレッシャーとどう戦うか
 第3章 実録「プレッシャーとどう戦うか」下柳剛投手の戦い
 第4章 自信はつくものではなく、つけておくもの
 第5章 集中力を、どうつけたらいいのか
 第6章 ゾーン、あるいはフローというピークの状態
 第7章 「ありがとう」の心でタフになる

 また、著者の主張を知ってもらうために、「はじめに」と「おわりに」の中から一部抜粋してみた。
 
ー「はじめに」からのー部抜粋


 …「本番に強くなる」と題した本書では、まず本番で実力の8 0~ 100%が出せ
るようになるためのプレッシャーコントロールや自信などについて、具体的な事例と方法を述べていくことにしたい。続いて後半では、「ゾーン」とか「フロー」と呼ばれる究極の集中状態について解説し、それに至るノウハウを解説していくつもりである。
 そしてそのノウハウは、決してスポーツの一流選手だけではなく、老若男女を間わず仕事にも勉強にも日常生活にも使えるということも申し添えておきたい。…

ー「おわりに」からの一部抜粋

 …本番、つまり試合や試験など肝心要の時に、日頃培った実力を100%発揮した
いとは誰もが思うことである。そのために練習(勉強)もするし、体も鍛え健康にも留意する。しかしそれだけでは、なかなか思うようにカを発揮することができない。
 技や体と並んで、私たちには心というものがあり、それがどのように動いてくれるかで、事の成否は大きく変わってしまうのである。多くの方がこうしたことには気づいているが、ではどうしたら心がうまく動いてくれるかという具体的な心の使い方や鍛え方については、よくわかっていないというのが実状ではないだろうか。


 私自身がこの本の内容で特に気に入ったのは、以下の3つ。

I  第2章の3項:外的プレッシャー克服法
   ステップ1:「おう、来たか」と言ってみる
   ステップ2:プレッシャーの正体を見きわめる
   ステップ3:「みんな、いっしょや」と言ってみる
Ⅱ 第2章の4項:内的プレッシャー克服法“感情のコントロールの技  術
 (1) 4つの感情(①あきらめ②怒り③びびり④挑戦)レベル
 (2)「偉大な選手は、偉大なる俳優である」

Ⅲ  第7章の5項(3):自分に「ありがとう」と言えますか


 当該箇所については今でも心がけている。特に皿は寝る前の5分でできる。静かに目を閉じて座りゆっくり呼吸する。その状態で、自分に対して『ありがとう。/今日もよくやった。/ご苦労様。』 と感謝する。たったこれだけ。

 これまで、メンタル面の強化をあまり意識することがながったが、本書を読んでからは、その必要性を自覚できた。また、現在の年齢と立場でメンタル面の指導も積極的にやるべきだとの意識も芽生えた。
 私達にとって、平素の業務にかかる報告、プレゼン、会議等の場面でのプレツシャーはつきもの。この機に重要案件に対しては周到な事前準備はもちろんのこと、メンタル強化にあらためて取り組んでみてはどうだろうか。
 ゴルフ、野球などにかかわる記述も多くあるので趣味としている人には共鳴できる部分があるかもしれない。

 なお、図書の選定及び内容の抜粋・要点整理の要領等については、小職の趣味の範疇であり、個人としての関心事項に偏重した節もあるが、一読の上、役立ててもらえれば幸いである。

装備部長雑感(第12回):平成23年10月4日付

英霊よ、安らかに眠れ

 明日、北海道函館市から北方約100キロに位置する八雲分屯基地で行われる慰霊祭に計画休暇を利用して出席する。この慰霊祭は、平成6年北海道釧路沖地震に伴う偵察飛行(RF4)中、北海道長万部町静狩峠付近(当該分屯基地は最寄り)で殉職した操縦者の供養を目的とするもの。その前席操縦者が酒井秀春2空佐であり、私の同期生にあたる。

 今回の雑感は、命日(10月5日)が近くなったこともあり、同僚、同期生、そして家
族との緯に想いをいたすことと、供養にもなればとの思いで作成。

 彼の墜落事故後、期せずして私は当該分屯基地に補職(平成9年6月)され、当時も今同様に作成していた「第20高射隊長雑感」の中で記述したのが、以下の枠内に示す「英霊よ、安らかに眠れ」 (平成10年8月26日付)である。
 その後、千歳基地司令として赴任(平成19年9月から平成21年3月の間)することになるのだが、2空団が先の事故処置に最も関わった部隊であることを知り、あらためて同期生の強い「縁」を感じずにはいられなかったことが想い出される。

 今年7月5日に沖縄沖で発生したF15の墜落事故。ご家族を含め多くの方が深い悲しみにくれていることであろう。聞けば大勢の同期生が葬送式への出席を希望しているとのこと。ぜひわが身の一部と思い永きにわたる供養を願うものである。

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第20高射隊長 文月 雑感(10. 8. 26)

「英霊よ、安らかに眠れ」

 昨夜、岩手県沖で飛行訓練中であった3空団のF-i型機×2が消息を絶った。 国防を担う同胞の一人として操縦者の無事を唯、祈るだけである。
 私の同期生(防大)では、これまで操縦職2名が殉職し、内1名が先般「ユーラップ便り」等で紹介した、RF-4型機前席操縦者の故酒井2佐である。静狩峠の墜落現場で催した慰霊式及びそれまでの一連の準備にあっては、私情を挟まぬよう、事故現場最寄りの分屯基地司令という公的立場に徹したつもりであった。
 しか
し、同期の私が八雲に赴任するという宿命的な巡り合わせと、不思議と十年以上前の『ある思い出』が去来して、私人としても感傷的にならざるを得なかった。

 彼(故酒井2佐)は新田原基地の飛行隊で、私は習志野駐屯地の高射隊でそれぞれ勤務していた当時、東京で行われた同期生の披露宴の席上で久しぶりに再会する機会があった。彼は、この時、地元(宮崎)の焼酎と、何かの煉製をわざわざ私のために遠路持参し
てくれたのである。親友といえる程の仲ではなかっただけに、同期というか、友人を大切にする彼の優しさと笑みに感激し、その何気ない行為に恐縮したものだ。

 話は慰霊式の一週間前に戻るのだが、隊員の手で御遺族が作製された石碑を現地に設置した直後に何か御神酒でもと考えていた折りも折り、偶然にも十数年前に彼が私にくれたのと同じ銘柄の焼酎を、整備小隊の先任のおかげで手に入れ献上することができた。

 その焼酎は、宮崎産で全国的にポピュラーであるが、とうとう二人で酌み交わすこと
がなかった『百年の孤独』。昨年までは、このネーミング故にウィスキーにも似た琉拍色の液体を味わいながら、どうしても物悲しくなりがちであった。

 今年、御遺族が長年願いとされていた石碑建立を実現したことと、来年以降は基地として毎年環境整備等を行うことを可能とすることによって、御遺族の自衛隊組織に対する信頼感は一層高まり、彼の孤独感も払拭されるのではないだろうか。同時に、私は責
務をーつ果たした安堵感から、今後は『百年の孤独』を少し陽気に痛飲してみたいと思う。
 加えて、私は楽観的なのか、思い込みが強いのか、慰霊式を終えた7月23日以降、基地開庁祭をはじめとする基地及び隊の行事・訓練等が円滑に運営できていることについては、所属隊員の職務遂行の賜であるが、何かしら彼の加護があるように思えてならない。

装備部長雑感(第13回):平成23年11月9日付

班長から学んだ10の教え


 本年3月「装備部の将来展望」を定めた以降、装備部で勤務する皆が組織理念を常に念頭に置きつつ、所掌する業務を遂行し、各種ビジョンの実現に向け努力してもらっていることに敬意を表したい。

 人材育成の観点については、4番目のビジョンにその努力目標を掲げている。このことから、私自身も空幕長の補佐と共に皆の業務処理の向上や幕僚活動の活性化を強く意識した上で、特に初めて空幕勤務を経験する担当者に対する指導に努めている。

 私は立場上、皆からの報告や説明を日々受ける。準備した資料を用いながらの簡明な報告等とその要領の良さに感心させられる。担当者の場合、当然ながら課班長等に よる事前の指導を得ているからこそでもあろう。時に、文章表現や図表のまとめ方について向上のあとが見受けられ、幕僚能カの伸展を実感させられる。

 新人幕僚としての各種業務に何度も蹟き、ため息をつきながらの毎日を送っていた15年前の自分自身に照らしてみると、皆の方がはるかに報告等において的を得ていて上手い。正直そう思う。
こうした私が空幕担当者時代にあって、業務遂行上の精神的支えになったのが直属上司だった班長による「幕僚活動の教え」であった。

 その班長(防大18期 織田邦男(操縦)氏)が、本年9月号の鵬友に「体験的幕僚心得」というタイトルで寄稿、まさに私が担当者の時に教わった「仕事をするときの心がけ」が記述されていた。当時、同じ班の担当者の多くは、容易に目に触れるところに『織田の十訓』 と称する紙を置いて仕事に精励したものである。

 先般、元空将懇談会会場でご本人にお会いした際に、『班長、鵬友を読ませていただきました。確か、私達に対する幕僚心得は10項目でしたが・・・。』と間うたところ、『班長以降の経験を踏まえ、項目を追加して整理(鵬友では13項目(下記の枠中に示すとおり)として記述)し直したんだ。』 と笑いながら応えていただいた。
 班長から学んだ10の教えについては、空幕の担当者勤務を終え、その後の部隊勤務以降も長きにわたり活用し、今でも思い出すほどである。

 鵬友記載の13項目のうち、いくつかは洗練された項目に再整理されているが、1、6、 7、 9、 13の各項目については、まさに私が業務机のビニールシートの下に挟んでいた紙上の項目と同じ文言である。そのひとつひとつの細部について熱、わかりやすく私達担当者に説明してもらったこともよく覚えており懐かしい。

 当時の10番目の項目、つまり最後の項目は「健康管理を怠るな」という内容だった。その意味するところは、自らが体調を崩せば結果として他の幕僚(班員)に余分な業務を請け負わせることになる、組織としても業務処理能力が低下するというもの。
 今から想えば、織田班長流の愛情表現で、激務に耐えながらも自らをいたわる気持ちを大切にしろとの指導であったのだと理解できる。
 なお、織田班長から学んだ幕僚心得は、私の場合、「将来展望(組織理念とビジョン)」として形を変え、活用している次第である。
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「体験的幕僚心得」(元航空支援集団司令官 織田 邦男)
ー鵬友 23年9月号(37巻3号)から抜粋

1 倒れても、逃げるな
2 優先順位を考えろ
3 戦略的対応に心がけよ
4 組織で仕事をしろ
5 先行性を持て
6 何事にも首を突っ込め
7 3日以内に結論を出せ
8 意思疎通を大切にせよ
9 簡明な文章を心がけよ
10 休む勇気を持て
11 現場を基軸にせよ
12 固定観念を捨てよ
13 出口のないトンネルはない
******************************

装備部長雑感(第14回):平成23年12月8日付

 これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。

航空自衛隊の品質文化を知ってもらいたい!との思いから


  月刊『クオリティ・マネジメント』誌から、空自にとって の品質、その追究のための取組みについて、空幕長へのインタビューに併せて私に執筆依頼があったのはちょうど半年前。

 原稿作成から9月上旬の脱稿まで約2か月。装備及び整備両課の関係者(有志と言うべきか)と一致協力、文章はもとより図表の細かな表現にも工夫・配慮した記事が、同誌12月号(テーマ「品質文化を総括する」)に掲載された。
 岩崎空幕長のインタビュー(表題「いざという時、本当に役立つ組織とは」)と、装備部作成の記事(表題「航空自衛隊の品質文化とその将来展望」)は、「航空自衛隊のクオリティ」という大見出しで巻頭を飾ることとなった。執筆に関わった一人として、また文責を負う者として感無量である。

 しかし残念なことがひとつ。当該誌は本号をもって休刊となる。昨今の我が国における経済情勢及び文化指向の変化等をかんがみるに、工業関連の専門誌が休廃刊に追い込まれるのはわからないでもない。
 それでも、空自の品質文化を部外に伝える一助になったのではないだろうか。また後方特技者に限らず多くの空自隊員にも知ってもらいたい。我々が品質に関する独自文化を形成するに至ったことを。(後日、記事作成にかかわった者同志で祝杯をあげることとしたい)

 なお、記事自体はこのホームページの中に掲載しています。
「現役時代の主張」→「その他」→「
航空自衛隊の品質文化とその将来展望」(平成23年8月 福江広明)で検索してください。

装備部長雑感(第15回):平成24年1月19日付

 これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。
 今回は、『異なる経験がリーダーの強みを左右する出身軍隊別:元軍人CEOの適性診断』(掲載誌:「Diamond Havard Business Review 2011年1月号」という題名の記事を選定。



航空自衛隊に奉職することで得られる資質

 早いもので年 明けから半月が経過。年末年始休暇の過ごし方は各人異なるものの、英気を養うことができただろうか。
 私自身にとっては、以下のとおり有意義な6日間だった。防衛大学校25期生卒業30周年記念パーテイ(於:明治記念館)に参加(2 9日)、家族でTDL (30日)、自宅近傍の神社に初詣(31日~1日)、明治神宮参拝及び皇居一般参賀(2日)、家族で「初売り」へ(3日)。

 これに先だつ年末には、慌ただしい業務から一時的とはいえ開放されたこともあって、よく利用する自宅近くにある区立中央図書館に出かけてもみた。
 今回は、その際に興味を引いた記事を紹介。記事名は、『異なる経験がリーダーの強みを左右する出身軍隊別:元軍人CEOの適性診断』(掲載誌:[Diamond Havard Business Review 2 0 1 1年1月号」。

 この記事に私が関心を持った理由は2つ。
 ひとつは、所属する軍種によって、リーダーシップの本領を発揮する分野及びやり方が異なるという内容であること。
 もうひとつは、記事では退役米軍人(高級将校)を対象にしているが、その結論部分は、自衛隊組織や自衛隊員に照らしても適合するのではとの思いを得たからである。

 昨今、私の同期生においても定年退職、そして再就職の時期を迎える者が増えた。研究論文的要素の強いこの記事を、私も含めて眼にする(した)者は再就職上の希望業種の選択に役立つのではないだろうか。
 また、これまで各自衛隊OBと再就職先の仕事関連で会話した経験からしても、この記事が各自衛隊や軍種別の自衛隊員に当てはまるはずとの仮説は、さほど間違っていないように感じる。

 私達は、定年まで30年以上にわたり航空自衛隊に奉職することになる。このため、知らず知らずのうちに、リーダーシップ発揮の機会を通じて、指揮と統制の両機能を器用に使い分ける能力を身につけ、SOP、TO、TM等を重視する文化に慣れ親しみ、いわゆる有機的な結合による戦力発揮が求められる組織体系を好む体質になっているのではないだろうか。

 記事にあるように、特定の軍種で体得したリーダーシップの資質を客観的に知ることができるならば、きっと再就職等の「第2の人生」選択も楽しからずやと思うのだが。下枠内に紹介記事のうち、参考になるような部分を抜粋してみた。さらに興味ある人は、ぜひ全文を精読してみては如何か。

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「異なる経験が、リーダーの強みを左右する出身軍隊別:元軍人CE0の適性診断」

著者:ハーバード・ビジネス・スクール准教授 ボリス・グロイスバーグ
   ハーバード・ビジネス・スクール博士課程 アンドリュー・ヒル
   元米陸軍大尉・飛行士 トビー・ジョンソン

序論(抜粋)
 軍隊における経験はビジネスでも貴重な財産になると従来からアメリカでは考えられている。しかし、最新の調査から、より微妙な実像が浮かび上がってきた。―口に軍隊とはいっても、どこも同じ経験を生み出すわけではないのである。
 ………
 陸軍や海兵隊での経験を持つ経営幹部は、大企業より中小企業でよい結果を出す一方、海軍や空軍の元士官は、規制が厳格な産業で能力を発揮する。つまり軍隊なら海軍も陸軍もすべて同じではなく、どの軍の出身かで、発揮される強みは異なってくるのである。

本論(抜粋)
〇「どの軍隊出身か」で異なるリーダーシップ・スキル
 ………
 アメリカでは、軍隊出身のリーダー達は、軍以外の環境でも発揮されるリーダーシップ・スキルによって高く評価されてきた。世論調査会社のギャラップは毎年、さまざまな公的機関と民間機関に対する信頼度をアメリカ人に尋ねているが、この調査が始まった1973年以降、毎年1位か2位に選ばれ、98年以降は連続してトップの座に就いている機関がある。軍隊である。
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 どの軍に属するかによって、将来の企業リーダーとしての備えは、意外なほど異なってくることが判明した。
 一般的に言うと、海軍と空軍出身のCEOは、経営に当たってプロセス中心のアプローチを取る。つまり社員に対して、標準的な手続きに従い、そこからほんのわずかでも逸脱しないことを期待する。これによって両軍出身のCEOたちは、非常に規制が厳しい業界においても他を凌ぐことができる。
 一方、陸軍と海兵隊出身のCE0は、柔軟な姿勢で、みずからのビジョンに基づいて行動できる権限を社員に与える。彼らは中小企業において卓越した実績を上げている。
 それは、中小企業のほうが明確な指示をするためのコミュニケーションを取ることが容易で、それに従って実行できる有能な部下を特定できるからである。

〇プロセス重視か柔軟性重視か
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 軍の種類、つまり陸・海・空のいずれかによって、プロセスと柔軟性のどちらを重視するかは異なる。
 海軍や空軍の士官は、潜水艦や空母などの非常に高額で相互依存性の高いシステムを運営するが、そこでは正式な手順から逸脱すると、装置の面でも人命の点でもきわめて高くつく可能性がある。
イラク解放作戦に従軍したある元陸軍大尉が語ったように、「陸軍でボルト1個を間違ったところにつけると、故障するのはトラック1台。しかし海軍や空軍でボルト1個を間違ったところにつけたら、失うのは1台1億ドルの装置かもしれないのである。このような状況では、柔軟性を犠牲にしてでも、中央から統制を取るこ
との重要性が強調される。
 ―方、陸軍や海兵隊の軍人は常に地上の現実に応じて動きを調整しなければならない。両軍のシステムはモジュール的であるため、より柔軟性の高い対応ができる。部下には、常に指揮官の総合計画と一貫性を保ちながら、適切な行動を判断する大きな権限が与えられる。
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〇海軍と空軍:相互依存性を管理する
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 空軍では海軍と同じように、兵は精密さとプロセス重視という文化に従う。機器は小さく、少ない人員で操作されるが、戦闘機の破壊的なパワーと、標的までの遠さから、手順を厳守し、他のユニットと頻繁にコミュニケーションを行う必要がある。
 手順から逸脱したりシステムが機能停止したりすると、その影響は雪だるま式に大きくなって事故や死亡の原因になることもある。そのリスクは深刻であるため、空軍ではある程度の柔軟性を犠牲にすることをいとわない。
 空軍と海軍におけるプロセス志向は、士官および下士官兵向けの選定図書リストを見れば一目瞭然だ。アメリカ軍隊の全軍向けの図書リストには、戦史、伝記、アメリカ史、市民論ボ含まれているが、海軍と空軍のリストにはプロセスおよび品質の管理に関する本があり、陸軍と海兵隊にはそれはない。
 このプロセス志向の姿勢は、ビジネスの世界ではどのように表れるのだろうか。第一に、軍隊の経歴は業務執行にはよいが、イノベーションには役に立たないという一般通念とは裏腹に、海軍や空軍出身のCEOはイノベーションが重要な業界で優れていることが、少なくとも我々が調査した企業からは判明した。
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〇陸軍と海兵隊:状況対応型の指揮統制
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 陸軍と海兵隊は、広範な個人の能力と柔軟性を原則に運営されている。補給部隊が攻撃されたら、味方の支援を待っている間も自力で防衛するものとされている。補給トラックの運転手はたちまち戦闘歩兵に変身する。装置と行動環境の複雑さを考えれば、海軍と空軍がこのような方法で機能することはありえないことは、想像がつくだろう。
 この種のリーダーシップ経験があると、第ー線で意思決定をする権限を他社に与えることをいとわない経営幹部になる傾向がある。陸軍や海兵隊は、マネジメントとは、全般的なビジョンを明確かつ一貫して伝える能力、それに従って遂行する能力のある下士官はだれかを特定する能力であると見なしている。
 このアプローチは中小企業に適していると思われるかもしれないが、実際にそのとおりのようだ。
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〇結論(抜粋)
 軍務が企業のリーダーにも有意義で貴重なスキルと経験を育むことには疑間の余地はない。しかし企業が軍隊から学べることはほかにもある。適合性は重要だということだ。
 軍隊は、多くの者にとってリーダーシップが試される場であり、その影響は大きく深く残る。経験を積んだのが陸・海・空のどの軍かによって、リーダーとしての視点やスタイルも変わってくる。
 組織を率いるのは誰であるべきかを検討する時に、我々ができる最善のアドバイスは、軍隊なら海軍でも空軍でも陸軍もすべて同じだという見方を避けることである。
 あるいは、その点では一般的な経営者のタイプについてもそれがいえる。いかなる組織であっても、状況が変われば異なるリーダーシップ・スキルが必要になる。その任務にピッタリ合った人材を採用することだ。

装備部長雑感(第16回):平成24年2月22日付

これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。

「“笑い”は、健康管理や業務促進の秘訣!?」


 例年のいわゆる年度末業務に加え、今年はF35A選定に伴う導入準備、飛行及び地上の各装備品の不具合事案への対応等、取り扱わなければならない業務の量は確実に増加しているはずである。
 また空幕長が職務方針として示されている「不断の改革及び改善」を鑑みれば、私達の業務処理は近視眼的でも表層的でもあってはならず、このためその質は極めて高いものが求められていることになる。

 私達はこの状況を従前から予測し、昨年3月「装備部の将来展望」を作成した。とりわけ震災以降から今日に至るまで、その組織理念をもって私達は、職務に遭進するとともに、個々のさらなる能力向上を図ることにより、作戦支援基盤の維持、そして拡充に務め、ビジョンの実現に向け地道に努力してきた。
 したがって、今後も装備部は、空幕長によるいかなる要望にも迅速かつ的確に応え、健全で精強な部隊運営に貢献し得る体制及び気風にあるものと確信している。

 さて、質量共に高いレベルの業務処理に積極的に取り組む環境にあればあるほど、身体や頭脳のクールダウンや一時的な解放は、業務の効率化を図るためには必要不可欠。そこで、今月から装備部内で“癒やし” の一方策として「サロン・ド・ロージ」(ロジ関係者の談笑の場との位置づけ)を実行してみようと思う。そのコンセプトは以下のとおり。

〇時期:1~2回/月(基準)、課業終了後の1時間~1時間半の間
〇場所:装備部使用施設(後方モニター室、面談室等)
〇規模:10~15名程度(その都度、有志による参加)。当面は課室別に実施
〇話題:職務以外で、個人として他人に提供できる明るく楽しい話題


これは、あくまでも「ビジョン2015」の第5項に示す所属隊員の健康管理(メンタルヘルスを含む)の延長線上にあるもので、談笑が家庭や週末のみならず、職場内においても心身のリラックスにわずかでもつながればよいと心から思う次第である。とりあえず、はじめてみることにしよう。

装備部長雑感(第17回):平成24年5月18日付

これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。


『「雑感」作成の原点と「ビジョン」への思い入れ』

 空幕で使用している業務用端末機器が更新された以降、それまで月1回作成してい「雑感」の掲載を見送っていた。
仕事にかまけていたことに加えて、従前の装備部ホームページ(顔写真及びプロフィール付)を気に入り、この充実を楽しみにしていたことに対する反動かもしれない。

 そもそも、私が職務上「雑感」の作成に取り組み始めたのは、八雲分屯基地司令の時代。着任した当時(平成9年)、当該基地には第20及び23各高射隊、並びに第5移動警戒隊の3個隊が所在していた(その後5移警隊は他隊に整理統合)。
 隊長兼ねて基地司令職にあった私は、各部隊の協調・連帯感並びに所在隊員、家族及び地域住民との融和団結をさらに深めたいとの思いから、所在隊から記事を提供してもらいながら業務の合間に基地新聞を個人で作成・配布することにした。
 併せて、自隊(20高隊)に対しては、部隊長としての考え方、演習訓練に対する心構え、各種行事等の所見等を「第20高射隊長雑感」(月1回)とのタイトルで自隊に特化した内容を、事務連絡形式(紙ベース)で各セクションに配布。
 その後の異動先である空幕運用調整官、補任課長の各職においても「雑感」は部下・同僚等とのコミュニケーション・ツールとして活用し続けた。

 千歳基地司令職に就いた時(平成19年9月~21年3月)には、基地ホームページ上の基地司令枠を活用して、部外者(地域住民向けの発信)を意識しながら、千歳基地で勤務する隊員及び家族へのメッセージを主体に作成していった。写真の添付、背景デザインの工夫をしながら、基地及び団朝礼の内容、各種訓練及び行事等についての所見等を週に3編ほど記載した。今から考えるとブログ的な効果
を期待していたと思う。
 この記事を書くにあたり、千歳基地司令離職の際に司令部から提供してもらった「雑感集」アルバムを、久しぶりに眺めてみた。当時も「ビジョン」の作成とその周知に結構力を入れていたことが思い出された。
 
 下記の枠組み内の3つの記事は、そのアルバムから抜粋したもの。

 人とのコミュニケーションは容易なようで、真意を理解してもらうことは本当に難しい。伝達の手段・方法は、多種多様であるにもかかわらずである。
 人との意思疎通を図るにあたっては、なかなか自分流のやり方は変えられないが、「雑感」作成の原点に立ち返り、今後とも少しずつ記載内容を充実させ、「ビジョン」を最大限に活用しながら部隊等運営に役立つことができればと思う次第である。


1  平成20年3月25日(火):「2空団のビジョンを作成、隊員へ周知します」

 今月末から来月初めにかけ、多くの隊員の転出入があります。この定期異動による人の入れ替わりがあっても、基地には、もちろん群にも、変えてはならない、あるいは今後とも変わらず追求しなければならないものがあるはずです。
 団司令の立場からすると、団の伝統であり、その気風、気質であろうと思っています。では、引き継いでいる伝統とは具体的に何なのか。過去のいかなる業績に根ざしているのか。これからはそれを背負って何をしていければいいのか。この先に追い求める団の理想的な姿とは何なのか。
 着任して約半年、自問自答の末に、今後追求すべき2空団の理想像を「ビジョン2015」として、作製してみました。隊員及びその家族等に周知してもらうために新年度のできるだけ早い時期に、携行用折りたたみカードと家族等にも理解してもらうためのリーフレットを作製、配布することとしています。隊員一人一人が大いに啓発して隊務運営に励んでもらうために少しでも役立てば幸いです。


2 平成20年4月8日(火)】[2空団で「ビジョン」を作製した訳」

 先月、2空団のビジョンを作製しました。ビジョンを辞書で引いてみますと、「将来のあるべき姿を描いたもの。将来の見通し。構想。未来図。未来像。」とあります。具体的な例を挙げてみますと、先月スペースシャトル「エンデバー」で日本人飛行士・土井隆雄さんが無事地球に帰還されたことはニュース等で知っての通りです。彼が国際宇宙ステーションに取り付けた「希望」、日本の宇宙開発は大きな前進を遂げ、国民にさらなる宇宙での夢の実現を予感させてくれました。
 一見、不可能なことも中長期的なビジョンを持つことで変革と改善を引き出し、可能にすることができるのです。だから、2空団でもビジョンを作りたかったわけです。


3 平成20年5月23日(金):「航空自衛隊の活動領域は航空宇宙へ!?」

 先日、自衛権の範囲内で宇宙の軍事利用をも可能とする「航空宇宙基本法」が成立したのはご存じの通りです。
 7, 8年前になりますが、航空幕僚監部に勤務していた時に担当業務の一環で新たに作成する航空自衛隊の将来ビジョンについて関係部署等と議論したことがありました。
 そのーつの課題が、空自はその活動領域を15年程度先には宇宙空間まで拡大していくべきか否かでした。当然ながら議論は予算や優先事業などの観点から白熱したことをよく覚えています。当時、議論の前提を、宇宙の平和利用という限定は近い将来改正されるものと置いていたこともあって、このたびの「宇宙基本法」の成立はその見通しの正しさを証明したものと言えます。
 空自は、この法の成立を受け「我が国の安全保障に資すること」を旨に、いよいよ航空宇宙の領域で活動していくことになるものと大いなる期待を持った次第です。

装備部長雑感(第18回):平成24年6月28日付

これは、あくまでも業務処理又は私生活上の参考になればとの思いから、月1回を目途に作成、掲載しているもの。24. 6. 28


「現場力」について思うこと

 空幕長は、常日頃から隊員の勤務状況、部隊の諸活動等、隊務運営に関心が高く、機会あるごとに「現場力」という用語を使用される。この用語に対する私自身の理解は、『空自の任務遂行上の源泉』である。

 「現場力」自体は、従前から一般社会に浸透していたが、昨年3月の東日本大震災以降、被災地の復旧・復興を支える言葉としてあらためて各種メディアで取り上げられたこともあり、注目されるようになったと思われる。

 先日、偵察航空隊の隊員が空幕長(MRメンバーを含む)に対してQCサークル活動の成果を発表する機会があった。その内容はもちろんのこと、プレゼンに当たった空曹のきびきびした態度、溌刺とした声量等に、久しぶりに「現場力」を垣間見た感を得たのは、私だけではないはずだ。

 空幕の配置において、行政、事業管理、予算等にかかわる業務に没頭していると、部隊の精強化、健全な部隊運営を原点とする我々空幕勤務者としての本来目的を見失いがちである。
勤務年限や業務の違いこそあれ、「現場力」の向上・強化に我々一人一人が熱意を持って継続的に取り組むことこそが極めて大切だと考えさせられた。

 私は「現場力」を思い起こす際に、前回も一部紹介したが部隊指揮官の時に作成した雑感を読み直すことにしている。
 下枠内の記事は高射隊長時代のもので、あらためて読んでみると文章も固いし読み辛いが、当時「現場力」を鍛えるために自分なりに感じていた指揮官の意識の持ち方が思い出される。

 最後に余談になるが、今回再読してみて、有事におけて如何に「後方」を把握しておくことが肝心であるかについて気がついたことは大きな収穫だった。



第20高射隊長 睦月(1月)雑感(平成11年1月26日)

表題:「本年度冬季機動展開訓練期間中に考えていたこと」

 私は、冬季機動展開訓練に先立ち、大先輩から先般寄贈していただいた図書の一冊を紐解くことにした。それは、大東亜戦争生き残りの陸軍歩兵大隊長・長嶺秀雄氏が書き下した著書『戦場 一 学んだこと、伝えたいこと』 である。
 読み出すまでは、よくある戦争よもやま話か何か、そうであれば得意の斜め読み、飛ばし読みだなと高をくくっていたのが正直なところ。それが読み出し直後から、私は思い込みを恥じ、悔い改め、最後まで熟読玩味の連続。自らの実体験とその時の著書の心中を淡々と、そして切々と語る、わかりやすい内容に感じ入ることとになった。
 とりわけ、次の二項目(著書からの抜粋】ただし、両項は著者が第2次大戦中英国のウェーベル元帥が戦後行った講話から引用したとの前置き有り)が印象的であった。

①“戦場における兵隊の主な関心事は、第1にー身上の快適、すなわち食事、衣服、宿舎、病院などであり、第2に一身上の安全、すなわち生存と勝利である’'
②“戦場の指揮官は、第1に糧食(パン、塩、水など)と資材(弾薬、医薬品など)を与えること、第2に実際感覚(環境変化の本質をつかむ)があること、第3に親切であり、かつ厳しくあることが必要である”

①については、戦場心理というよりも死活に苛まれる「人」としての本能行動そのものである。これは近代戦にあっても不変ではなかろうか。自衛隊の訓練では、先の「快適」に対して十二分に配慮され、「安全」に対しては、危険要素の排除という観点から意図的に生死に直面させる状況は皆無。(ただ、本当にこれで戦闘に勝利する訓練でありうるのだろうかという疑念あり)
②は、①の現実の上に必然的に求められる指揮官の管理、指揮、統率の各能力を平たく表現したものである。①が真実である限り、いずれを欠いても早晩隊員を死に至らしめることになるであろう。
平時は、隊長という部隊指揮官の立場で、部隊としての要望・要求に納得いけば「押印」という行為で責任を果たすことができる。しかし、有事において印鑑など無用の長物。
そのときに、「指揮」、「統御」、「信頼」、「団結」等が真に必要不可欠であったと後悔せぬよう指揮官としての数少ない疑似体験を大切にしなくては。“努力に勝るものなし”
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